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邂逅

トラックの窓から後ろを振り返る。
ただ茫然と、首をうなだれ立ち尽くしていた父。
私たちと荷物を載せたトラックが遠ざかる、
その光景を見たくなかったのだ。

時を経て再会の日、父から渡されたものがある。
ずっと内緒で持っていたという古い写真。
父のかわいい娘だった私達幼い姉妹。
毎日がただただ楽しかったあの頃の
父と母と、私達。
時に眺め、思い出に浸った夜もあったのだろうか。
そう、私たちは紛れもなく家族だった。
平凡だが優しい日々を一緒に過ごした家族だった。

父はこの8月最後の日、静かに息を引き取った。
東京から駆け付ける私達を、いつものように
ずっと待っていてくれたのだった。

お父さん、今回はどんな人生だった?
ずっと家族でいられなくてごめん。
私ももうちょっとがんばったら、そちらに行きます。
再び逢えたら
またあなたの膝に私を乗せてくれますか。

あれから1か月。午前5時、まだ明けきらぬ東の空を背に
西に向かって呟いてみる。

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