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川は誰のもの?

2年ぶりのなだ桜まつりは静かだった。コロナのせいで飲食ブースはなかったものの満開の桜に誘われて、思いのほか人が集まってくる。都賀川のBBQチームもいつもより少なく、のんびりと春の川辺を楽しむ人が多い。いつも通りの自由な都賀川で違和感を感じた。

「あれ、どう思う?あの看板」
いつも都賀川を満喫している複数の知人から尋ねられる。最近貼り出された無粋な垂れ幕のことである。「バーベキュー こまっています バーベキュー場ではありません におい・けむり・騒音・ゴミが近隣に迷惑です」と大きく書かれてある。これまでもBBQ禁止(ただし法的拘束力はない)の表示はあったが、ここまで露骨な表現はなかった。サクラサク時期にいきなり心がササクれる。都賀川はBBQをしに来る人だけではない。一人で黙って寿し豊の寿司をつまみながらビールを飲んでいる人もいる。この掲示はふつうに川を使っている人の心をもざらつかせる。都賀川は公共空間であり、自分の庭のようにBBQするのはもってのほかだけど、「こまってます」という私的な苦情を我が物顔で公共空間に投げつけるのも同じことじゃないのか。におい・けむり・騒音・ゴミが近隣に迷惑ならこんな高圧的なコピーを見せつけられるのも迷惑この上ない。

街の公共空間といえば公園があるけど、実は都市公園法というものでがんじがらめにされていて、どちらかというとofficalな空間、都賀川は公園ではない。川なのだ。もちろん川には河川法がある。河川法は都市公園法より格段に緩い。

河川法
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。
(河川管理の原則等)
第二条 河川は、公共用物であつて、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。

公共用物とは「直接公衆の使用に供される公物」であって、都賀川河川敷でのBBQは管理者の許認可を受ける必要はないし河川法違反でもない。その代わりに安全性は一切保証されていない。川での行為はすべて自己責任の上で行わなければならない。雨が降ったら(いや、降りそうだったら)川から上がるのが鉄則だし、豹変する神戸の川の特性を踏まえた上で自由に利用されるべき場所だ。つまり都賀川は法律でがんじがらめの街にとって貴重なアジール(すきま)といえる。だからといって都賀川を無料のBBQ場と考えるのは門違で、河川法でもゴミを捨てると不法投棄で罰せられる。

都賀川の自由さは条例がかけられていないことに尽きる。都市公園のようにあれはダメ、これもダメという規制がない。河川法バンザイ。BBQを禁止するのは簡単で条例をかければいい。でも条例をかけることで都賀川に吹く自由な風は止む。条例は甘い罠だ。最終的にはせっかく与えられた自由を放棄することになる。むかつくこともあるし腹たつこともあるけども、そこを使う人、まわりに住む人がおたがい歩み寄りながら、そこをなんとかと工夫しながらズルズル、ダラダラ使い続けないともったいない。川はなんでもアリのopen spaceでも規制ガチガチのofficial spaceでもなく、使う人、住む人が共有するcommon space=お互い様であり続けてほしい。都賀川沿岸住民とBBQ族の不毛な戦争はやめたほうがいい。

都賀川は誰のものでもあるし誰のものでもない。では都賀川は誰の「ため」にあるのか。川は公共用物である前に自然の一部である、ということは水のためにあるのではないか。水は空から雨として降ってくる。山にしみ、川になって流れ出す。そして海にそそぎ、蒸発し、空を昇って雲になる。その大きな循環の経路と考えると川は空と一緒だ。どこまでも昇っていけそうな春の青空に「バーベキュー こまっています」という幕がドローンで掲げられたときにゃたまったものではないでしょう。川は近隣住民のためでもBBQする人のためにあるのではなく、水が水として気持ち良く流れてもらうための大事な道なのだ。いくら親水公園だなんていっても、人はその一部におじゃましてるだけにすぎない。そういう気持ちがあればBBQで馬鹿騒ぎすることもなくなるだろう。ゴミを置いていくなどもってのほか。無粋な垂れ幕も都賀川にとってはゴミにすぎない。

いっそ、人の事なんて考えずに、河川法第一章第一条にのっとって、水のために人がなにができるかを考えてみたらどうか。ゴミ拾いではまだ甘い。例えば川の水を飲めるくらいに無茶苦茶きれいにするとか。もし都賀川が「六甲のおいしい川」になったとする。「都賀川さん、都賀川さん、ちょっとここに座らせてもらっていいっすか?」「そんな水臭いこといいないな。みんな自由に仲良く使ったらよろし」。人の分断をよしとしない都賀川さんはきっとそう答えてくれるだろう。川の水をコップですくう。そこに桜の花びらが一枚浮かぶ。一口飲む。美味い。その極上の水をチェイサーに「いやーこの水が灘五郷をつくったんだよね」と灘の酒を一献。都賀川との接し方が変わると思うんだけど。どうでしょう?









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