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ピアノの発表会を克服した話

最近、緊張について考える事が多く、ふと習っていたピアノでの体験を思い出した。

ピアノは4歳から習っており、高校卒業を機に18歳で辞めた。かれこれ14年間続け、今でも暇つぶしに弾いたりする。ピアノは私の中では最も長く続けている物である。

しかし習っていた当時、発表会やコンクールといった場面では人1倍、いや、人2倍くらい緊張して、手汗が止まらなくなり、お腹も弱いため会場のトイレに篭っていた、なんてことも多かった。弾き始めると落ち着くという人もいるが、自分は落ち着くどころか、心臓がバクバクになり、胸がツーンと痛む状態で演奏していた。もちろん演奏はテンポが異常に速かった。審査員からの講評では、やはり毎回緊張によって乱れるテンポの指摘が多かった。

ピアノ人生1番の失敗

中学2年生の時に出場した発表会。いい演奏をして、周りの人に褒められたい!と強く思っていた。
また、この発表会ではリハーサルがあり、本番と同じピアノで出場する生徒が先生と打ち合わせをすることが出来た。しかしこの時、いつもは難なく弾ける部分が途中で指を忘れたのか頭が混乱したのか、急に弾けなくなった。この時は何となく調子悪いかも〜。くらいにしか思っていなかった。

しかし、本番になり、緊張による手汗で手はビショビショ、心臓はバクバク。弾き始めても一向に落ち着く感じはない。気持ちは、「早く終わらせたい」この一言に尽きる。しかしそんなことを思っているうちに、リハーサルで弾けなかった部分がやってきた。さっきは調子悪かったけど、本番は上手くいくでしょ。と思っていた。しかしそんな思い込みは呆気なく外れ、急にリハーサルでの不調と同じ様な状態になった。とにかく頭が真っ白で、次の音に進めない。同じ音をエンドレスに弾いている状態だった。「助けて」と心の中で何度も叫んだ。しかしステージ上では1人。終わらせる以外に方法は無く、何とか無理矢理その音を飛ばして次の音に繋いだ。演奏が終わり、舞台袖に行った時には恥ずかしながら大泣きした。私より後に弾いていた小さい子の方がよっぽど上手かった。

客席に戻り、「どうしたの、いつもは弾けてたのに」と母に言われた時には、あぁ。終わった…と思った。
それ以来、同じ様に失敗するのが怖くて先生に声を掛けてもらっても発表会には出なかった。

最後だから気持ちに区切りを付けることにした。

高校3年生、ピアノ教室の生徒として最後になるため、発表会に出ることにした。曲も今までで1番の難曲を選んだ。
楽譜を貰ってから数週間で、この曲無理かも。やっぱり出るの辞めよう。と思い、先生に相談してみた。しかし既に事務局に出してしまったため、このまま出場を辞めても出演料は返って来ないと言われた(1万円くらい)。流石に勿体ないし、もうやるしか無かった。

サボりながら練習に励んだ3ヶ月

私は怠惰な人間だ。だから週1回のピアノ教室に練習をしないで行ったりしていた。譜読みが難しいのに何故か「いつかできるさ」という変な余裕があった。今思えば先生を困らせていたと反省している。発表会本番まで1ヶ月半という時でさえ全然仕上がる見込みは無かった。流石にこれはマズイと思い、学校でも練習しようと友達を誘ったりして、毎日昼休みに音楽室に篭った。友達に聴いて貰ったり、窓を全開にして聴こえた人に上手いと思って貰えるようなクオリティにしようと、とにかく必死だった。
そして、学校生活である日友達から衝撃的な言葉を受けた。

誰もあなたを見てない、気にしてない

ピアノ以外にも学校生活で悩むことが多々あった。ある日友人に悩みを打ち明けてみると、「誰もあなたを見てない、気にしてない」と言った内容の事を言われた。(詳しくは覚えていない)最初にこの言葉を言われた時は、そんなに自分は無価値なのか、自分の事をどうでもいい人だと思っているのか。と腹が立った。
しかし、この言葉の意味を深く考えた時、自分も見ず知らずの人を見る時、「変だなぁ」とか「何やってるのかな、この人」みたいな風に深く観察したりはしない。そこに人がいる、くらいにしか思わない。

ピアノの発表会だって、演奏する人は「自分の番まであとちょっと」、「上手く弾けるかな…」とあまり余裕の無い中で人の演奏を聴いているし、演奏しない保護者や観客も「自分の子が上手く弾けるかな」とか、演奏者がミスをしたら「あ、この子いまミスしたな」もしくは、「そういう曲なのか」となる。演奏する側がどんなにミスをしようが、音が止まったり大きなハプニングが無い限り、特に違和感は無い。ピアノの発表会においても、要はあまり他人を気にしていないことがほとんどだということに気付いた。(審査員や関係者を除いて)
この言葉のおかげで、今までの自分は人にどう思われるのか、褒めてもらいたいから誰よりも上手く弾こう、などといった気持ちばかり優先していた事が分かった。でも今回は違う。最後にちゃんと納得の行く演奏がしたいと目標を自分の中に向けてみた

方法は意外とシンプルだった

・止まらない練習(間違う練習)
・心の中で歌えるテンポ

上記の2つだけを意識した練習をした。1つ目の止まらない練習とは文字通り、曲を最初から最後まで通して、つっかえてしまったら何事も無かったように次の音、次の音…と流して止まらないようにする。もちろんたくさん練習するのが前提ではあるが、ただ目的もなく何度も通して弾くよりも、止まらない練習をした方が本番でのミスも圧倒的に少なかった。そのためにはわざと間違えて、そこからどのように流して行くのかを試行錯誤して練習に励む必要がある。
2つ目の心の中で歌えるテンポ、というのは、私のように緊張するとテンポが速くなってしまうのは、弾いている時に速く終わらせたいが為に、勢いで指を動かしてしまっているように思う。そうなると指だけ先走り、頭の中で曲を繋げることが難しくなる。そのため、頭ではどうこう考えずに、心の中で歌えるテンポで指を動かしてみると割と乱れずに弾けた。

上記の2つを練習しているうちに駅のストリートピアノや、家で親に聴かせる時にもあまり止まらずに弾けるようになった。

本番

発表会本番となり、私は相変わらず緊張でバクバクだった。しかも演奏順は1番最後。緊張で会場へ向かう車の中でも親に「上手くいくよね、あれだけ練習したんだもんね」と焦りながら話しかけていた。
ホールに入り、演奏が始まると、もう心の中は怖いを連呼していた。しかし最初の方の小さい子の演奏を聴いていると、「今日のピアノの音綺麗だなぁ」「楽しそうに弾くなぁ」と何だか穏やかな気持ちになった。音が止まっている子がいてもあまり気にならなかった。
いよいよ自分の番になる時、緊張を通り越して無我の境地(?)に立っていた。「どう思われてもいいや」「誰も自分のミスなんて気にしていないし。」と思い、好き勝手やらせてもらいます。と言う気持ちで臨んだ。意識することは2つ。止まらない、心の中で歌えるように。そして、あれだけ練習したんだから。と、どんなに人より練習していなくても、今の自分を認める事にした。

演奏はとても気持ちが良かった。楽しかった。人生で最後の発表会というのが皮肉ではあったが、ちゃんと納得の行く演奏が出来た。周りからもたくさん褒められた。少しだけもっと発表会出たいな、と思ったが、ピアノを続けていればどこかで弾く機会もあるだろうと思い、区切りとした。





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