ジョブ型雇用人事制度のために(報酬とは何か)

■容易ではないジョブの値付け

ジョブ型雇用では、ジョブに対して市場価値を設定し、これを報酬と結びつけるというが、ジョブの達成に対し評価を行なうのが、今の目標管理制度と同じであれば社員の納得性を得ることは難しいだろう。

それ以前に、ジョブの定義をどうするのか、その市場価値をどのように設定するのかは正解があるとは思えず、現在の職能資格制度の焼き直しになるのではと考えている。

したがって、現在の報酬制度の問題はそのままひきづることになるだろう。

■報酬制度の問題点

年齢とともに自動的に上がる年功的な給与体系は否定的な風潮があり、成果や能力で支払うべきだという論調が強かった時期がある。おそらく今でもそうだろう。

私が社会人になった40数年前もおそらく年功的であっただろう。職能資格制度といい、等級と号俸で給与が決まり、年に1度昇格して行くが、昇格幅は一定であった。しかし、能力が高く成果を出している人は、早くに役職に付き、昇給幅も高かった。運用面でいえば、「能力主義」だった。その結果に文句を言う人はあまりいなかった。

90年代後半になると、企業の成長が止り、財務的に給与の支払いが難しくなったために、「目標管理制度」や「成果主義」といって、客観性の無い上司の不完全な判断で報酬が決まるという弊害が発生したと私は思っている。

ここでの問題は、評価を行なうメカニズムが上司の持つ(社員を四六時中監視しているわけでは無い)不完全情報で行なうために、評価の分布を中庸を中心とした正規分布になりがちだということだ。パフォーマンスの高い人材の正当な評価はできない。

■ジョブ型雇用であっても解決できない

単に、これまでの職種定義を細かくしたり、単に言い方を変えていたとしても、根本的な評価制度を改善しなければ、何も解決できない。

見せかけの改革は弊害の顕在化を起こす。
ジョブに価値を紐付けるならば、これから採用する新入社員はどうするのか。これまで働いてくれた社員をどうするのか。不利益変更が労働法上認められていないのであれば、報酬を極端に変えられない。

報酬とは、利益の山分けなのか。今後への期待への投資なのか。慣習として払っているので世間相場が基準なのか。これを明らかにしないで「ジョブ型雇用」に移行すべきでは無い。

課長だからいくらといった市場価値などを追求してはならない。

■賃金改善の圧力の記事

賃金を一律にまとめてしまう発想に違和感がある。

○https://www.jiji.com/jc/article?k=2022040500836&g=eco

中小4割超「上げるべき」 最低賃金、人材確保で―日商・東商調査
2022年04月05日

日本商工会議所と東京商工会議所は5日、中小企業を対象に実施した最低賃金などに関する調査結果を発表した。最低賃金を今年度に「引き上げるべきだ」と回答した企業の割合は前年調査から13.6ポイント上昇し、41.7%だった。一方、「引き下げるべきだ」「現状維持」と答えた企業の合計は16.7ポイント低下の39.9%となり、「引き上げるべきだ」が上回った。
 人手不足や物価高を背景に、人材確保や従業員の意欲向上のため、最低賃金の引き上げに前向きな企業が増えたとみられる。

<以上 引用>

○https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2203/24/news012.html

「獺祭」の旭酒造はなぜ、新卒給与を21万→30万円に引き上げたのか 社長が語る“異種格闘技戦への覚悟”
2022年03月24日

「われわれが導入可能な現状の技術では、酒造りの過程で必要とされる作業を機械化することは難しい。人間が手を動かしながら五感を研ぎ澄ませて行う作業とセンサー類で取得したデータをリンクさせながら、日々、品質の向上をめざし、味の探求を行う」と生産に対する考え方を熱く語る。

そのような社員を育てるためには、処遇を厚くすることで全国から優秀な人材を集める必要がある。実際、近年の新卒採用実績を見ると、地元の学校だけでなく、全国の学校から人材が集まっている。

<以上 引用>

○https://www.fnn.jp/articles/CX/350530

菱UFJ3.5%超賃上げ みずほ・三井住友も同水準検討
2022年4月21日

三菱UFJ銀行が、3.5%を超える賃上げをする。

三菱UFJ銀行によると、賃金と賞与をあわせた「総支払額」を前年度より1%上げることで労使が妥結し、昇格などにともなう賃上げ分をあわせると、実質的に平均3.5%を超える賃上げになるという。

三菱UFJは、総支払額での労使交渉を行っていて、成果を反映し従業員の意欲を高めるほか、このところの物価上昇にも対応する。

政府が3%以上の賃上げを求める中、三井住友銀行とみずほ銀行も、成果に応じた報酬や昇格などを含めた実質的な賃金で、三菱UFJと同程度の水準の賃上げを検討している。

<以上 引用>

一律に賃金を上げる論争はジョブ型雇用とは相容れない。
ただし、ジョブ型雇用に向けて、ジョブの適正水準を探るという意味では理解できる。

■人材の争奪戦の前哨戦

ジョブ型雇用はうがった見方をすれば、報酬の偏在化を目指しているといえる。ひどい言い方をすれば、貢献しない社員には給与を制限するということだろう。一方で、高い成果を期待できる社員には高い報酬で報いるという戦略になる。

現在、盛んにいわれている「高度デジタル人材」などは旧来の給与体系では確保できない。人材の争奪戦に負けないためには、わかりやすい「報酬」に手を付けざるを得ないだろう。中小企業にとっては、単一の企業で対応することは難しい。こうした高度な人材が必要なら、複数の企業で合同の仮想企業体を作り、協働で人材獲得するなどの戦略が必要になる。

さて、どうだろう。

<閑話休題>

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