ISO9001と経営:社員に伝える大事なこと(経営計画書と「5.2.1 品質方針の確立」)
ISO9001と経営:社員に伝える大事なこと(経営計画書と「5.2.1 品質方針の確立」)
■中期経営計画書の廃止
○味の素 中期経営計画を廃止 社長「精緻な数値積み上げ、現場疲弊」
2023年8月23日
食品大手の味の素は中期経営計画(中計)の策定を廃止した。「精緻(せいち)に数値を積み上げすぎて、現場が疲弊している」(藤江太郎社長)ことが理由だ。多くの上場企業が3~5年間を見据えた計画を作っているが、投資家からはより長期的な経営方針を求める声もある。
これまで味の素は原則3年おきに部門別の売上高や、利益率などの目標値を中計として公表してきた。しかし今年2月の経営説明会で、今後は中計を作らないことを公表した。7月中旬の朝日新聞のインタビューで藤江社長は「(計画期間の)3年の間に経営環境は大きく変わり、計画の意味が薄れることがある」と説明し、「計画策定に使う力を、違うところに使った方がいい」と述べた。
https://www.asahi.com/articles/ASR8Q64FVR81ULFA00S.html?ref=smartnews
どのような目標を立てて、それをどのように実現するのかを具体化することは重要である。
経営者にとっての重要なステークフォルダーの一つが「投資家」であり、彼らのためのIR情報の提示は必須だと言われている。そのための「中期経営計画」や「3カ年経営計画」などを作ることは常であると言うのが常識である。
しかし、その経営計画の策定が「お金」にだけ執着してしまうと、企業のあるべき姿を見失う。何を大事にすべきかを再考するために、いったん「中期経営計画」づくりは横に置くという姿勢は、私は正しいと思う。
■目標必達という呪い
ISO9001には「PDCA」という枠組みがある。これは誤解があるのだが、PDCAはSDCAと異なり、「やってみなければ分からない」要素を含んでいる。したがって、成果を出すためには複数のアプローチがあり、そのうちの一つを選択した以上、成功するかどうかは保証されているわけではない。なぜなら最適解は別にあるかもしれないからだ。
したがって、重要なのは
①どのような状態であれば成功なのかの程度を最初に決めること
②成功に至らなかったとしても振り返ることをすること
すなわち、目標必達は重要ではない。目標に至るプロセスが重要なのである。
○伝説のコンサルが「目標と実績がズレるからいい」と語った真意
経営計画は「昨対比」で作るな
2020/02/04
では社長として何を目標設定するのか? 大きくは8つ。
(1)市場の地位(シェア、業界内のランク)
(2)利益(代表的には社員一人当り経常利益額)
(3)革新(高収益を実現する事業構造への変革)
(4)生産性(量的な生産性と質的な生産性の両面から)
(5)人的資源(要員計画)
(6)物的資源(安定供給の体勢と固定資産、設備投資)
(7)資金(内部留保と短期、長期の資金調達)
(8)社員の処遇
https://president.jp/articles/-/32616?page=1
■大事なことを伝えることの重要性
こうした目標設定は何に基づくべきかと言えば、経営哲学に基づくべきである。
会社は何のために存在し、何を大切にするかを示すべきである。
たとえば、
・経営活動は社員によって支えられている。社員を大切にする。
・我が社の製品サービスは顧客に役に立つ製品であるべきである。製品の価値を高める改善活動をたゆまなく進める。
・お客様に支持される製品サービスを提供する。継続的な取引、顧客満足、売上向上を重視する。
などが考えられる。
これを経営者自ら自分の言葉で表現したものが「品質方針」である。
5.2.1 品質方針の確立
トップマネジメントは,次の事項を満たす品質方針を確立し,実施し,維持しなければならない。
a) 組織の目的及び状況に対して適切であり,組織の戦略的な方向性を支援する。
b) 品質目標の設定のための枠組みを与える。
c) 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。
d) 品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む。
こうした規格要求事項をそのまま品質マニュアルに記載しても意味は無い。
■反面教師としてのビッグモーター
○ビッグモーター「経営計画書」で話題 「生殺与奪権」とは何か
2023年08月05日
結論から言えば、「他人を思うままにできる力」を指す。テレビ朝日の記事によれば、社外秘の経営計画書には「経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」と記載されていたという。つまり、目標達成のために上司は部下を自らの思い通りに扱うことができるということだ。経営陣が売り上げを伸ばすことに対し、過剰なまでにチカラを入れていたことがうかがえる。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2308/04/news146.html
社員を支配し、リア液さえ上げられるならば顧客に不実を働くことも厭わないという内容だったのではないかと推察される。
これに異を唱えない社員で構成される企業の行く末はいずれ分かるだろう。
<閑話休題>
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?