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ISO9001と経営:グローバル戦略の落とし穴(リスクの分散)「6.1 リスク及び機会への取組み 注記1」

■ISO9001と経営戦略

 ISO9001:2015の冒頭は以下の文章ではじまる。

品質マネジメントシステムの採用は,パフォーマンス全体を改善し,持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る,組織の戦略上の決定である。

 すなわち、企業活動は品質だけで支えられるものではなく、多くの戦略が複合的に絡み合って成立する。ISO9001:2015のベースとなるMSSは汎用的な規格であり、戦略の展開の要諦を抑えている。
 企業は、自社の計得環境を把握し、リスクと課題を明らかにする、明らかになったリスクや課題に対応するための戦略と課題解決のための計画を立てる。計画を立てたならば、確実にこれを実施し、得られた成果が意図したものではないならば、その原因をさぐり、対策の立て直しを行なう。
 実にシンプルなのだが、現実世界はそう簡単ではない。

■リスクへの対応の仕方

6.1 リスク及び機会への取組み 注記1
「リスクへの取組みの選択肢には,リスクを回避すること,ある機会を追求するためにそのリスクを取ること,リスク源を除去すること,起こりやすさ若しくは結果を変えること,リスクを共有すること,又は情報に基づいた意思決定によってリスクを保有することが含まれ得る。」

と規格要求事項の注記に記載がある。
 したがって、地政学的リスクに対応するためには、保険をかけたり、そもそもそういうリスクの高い地域に進出しないようにしたりと言った様々な対応方法がある。
 その中でも、依存度を減らすというのはかねてから行なわれていることである。

○脱・中国依存、大阪が先行 進出企業は全国で1600社減
2022年12月9日

中国を巡る地政学リスクの高まりを受け、日本企業の間でサプライチェーン(供給網)の中国依存を抑える動きが出てきた。現地法人などを通じて進出する企業の割合は2022年に0.87%と、過去最高だった12年から0.14ポイント低下した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC08DVG0Y2A101C2000000/

○在外ドイツ企業、アジアで「チャイナ・プラスワン」の動き
2023年01月11日

調達先を見直す理由(複数回答可)については、回答企業の64%が「コストの最適化」、62%が「調達に問題が生じた際のリスク低減などのための調達先の多様化」とした。新規調達先を探す場合の国・地域では、全ての地域で5割以上が「(拠点がある)当該国・地域内」と回答、地理的な近さを重視していることが判明した。DIHKはこの理由について、サプライチェーンを短くして物流の障害やコスト増を避けるためとみている。

在アジア大洋州(中国を除く、以下同)のドイツ企業では、同地域内で新規調達先を探すとした企業(複数回答可)は61%だった一方、中国で新規調達先を探すとしたのは22%にとどまった。他方、在中国ドイツ企業について、中国で新規調達先を探すとした回答は51%なのに対し、アジア大洋州で新規調達先を探すとした割合は61%に上った。DIHKはこの結果について、ドイツ企業の「チャイナ・プラスワン」の動きを示すものとしている。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/0291f6259057f3b7.html

○製造の「中国離れ」進むか 欧米との賃金格差が大幅縮小
2023.02.07

賃金格差は今も存在するが、もはやかつてのように、中国で製造するほうが合理的だと思えるほどの差ではない。生産性はいまも米国の労働者のほうが高いことから、この人件費の差は完全に相殺されるかもしれない。

中国はもはや、物資調達先として、かつて考えられていたほど信頼できる存在ではないのだ。中国政府はコロナ禍のあいだ、マスクなどいくつかの重要物資に輸出規制をかけた。その理由は十分に理解できるが、そうした措置が、海外のバイヤーやメーカーに良い印象を与えたとは言えない。

https://forbesjapan.com/articles/detail/60711/page2

■あなどれないリスクの分散化

〇コマツが中国一極生産部品をマルチソース化、3カ国に調達拠点
2023年02月20日

コマツは5月にインドとインドネシア、タイの各現地法人に「アジア調達センター」を設立する。米中対立など地政学リスクに備え、サプライチェーン(供給網)を見直し、建設機械などの部品調達のマルチソース(複数社)化を一段と進める狙い。中国一極生産部品のマルチソース化をはじめ、アジア現地法人の間でクロスソース(相互供給)を促進。日米欧向け部品のクロスソース拡大についても検討する。

https://newswitch.jp/p/35904

〇建機メーカーの業績の明暗を分ける中国市場への依存度
2023年02月21日

中国市場への依存度の差が建設機械メーカー各社の業績の明暗を分けている。大手3社の2022年4―12月期は、中国依存度が低いコマツと日立建機が大幅増収・営業増益だった一方、両社より依存度が高いコベルコ建機は減収・経常減益。住友建機も22年12月期(3月期から決算期変更)で増収は果たしたが営業減益だった。中国の売上高比率はコマツや日立建機の3%程度に対し、コベルコ建機と住友建機は10%近くで、この差が如実に表れた。

https://newswitch.jp/p/35920

長い目で見れば、安定した事業の業績を補償するものになる。
こうした事業の分散化は思いついたからと言ってすぐにできるわけでもなく、また直ちに収益に反映されるものではない。

長期的視点に立った戦略が必要であり、こうした分野にこそリーダーシップが求められる。

<閑話休題>

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