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ISO9001と経営:漫然とデータを集めているだけでは不正に気がつかない(グリコと日本製鉄)

■データ分析の誤解

 データをグラフにしたり表にしたりすることは「データの整理」であって分析ではない。本来あるべき姿と比較して何かを発見することが分析である。

 教訓めいた話がある。
 新任の品質管理責任者となったA氏は、それまでの出荷検査のデータを眺めていた。
 グラフ化する内に妙なことに気がついた。
 ・検査基準のP値に満たない製品は出荷してはならない
 ・全体のグラフは概ね正規分布を示している
 ところが
 ・P値-α(小さい値)のデータはなく
 ・P値+αのデータが比較的多い
 不思議に思ったA氏は、検査担当者に話を聞いた
 ・P値に満たなくとも出荷して良いと言われている
 ・昔、お客様への特採処置で了解をもらっている
 ・ただし、書類上は合格にして欲しいので、検査データはP値を超えるようにしている
とのことで、これは会社も知らなかったと言うことで問題が表面化した。

 データを分析すると言うことは、漫然とデータを整理して眺めることではない。
 そのデータは、どうしてそういう傾向を見せるのか?それは当たり前のことなのか?良い状態を表しているのか?改善するとしたら何ができるのか?などを探求しなければならない。それを分析とは言わない。

■報告を鵜呑みにしない

 会社の知らない不正行為は会社の信用を毀損する。
 しかし、隠そうとしている不都合なことは単純に、それだけ見ていても分からない。
 何かのきっかけが必要になる。

○グリコ子会社工場で排水データ97回改ざん、「アイスの実」生産への対応不備で
2023年03月10日

江崎グリコは、生産子会社であるグリコマニュファクチャリングジャパン 千葉工場において、2019年5月~2022年12月にわたり、水質規制値の基準値を上回る排水をのべ50件行い、その行政報告において、水質分析データを、のべ97件書き換えていた事実を確認したと発表した。

 今回の水質データ改ざんが発覚したのは、2023年2月23日に排水処理施設から未処理の水があふれ出し外部へ流出した事故が発生したためだ。この事故の調査を行う過程で、過去の水質分析結果を確認したところ、基準の超過や、データの書き換えが発覚したという。

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2303/10/news067.html

○日本製鉄のずさんな水質管理、虚偽報告を受けた総点検で基準超過シアン50件超
2022.08.23

 基準を満たすまで測定を繰り返し、基準値超過でも無報告──。日本製鉄の東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)で水質測定の不正が発覚した。原因究明中に排水成分について測定値よりも低い値を報告していたことが判明し、過去3~5年分の水質測定値を総点検した。その結果、有害物質であるシアンについて排水基準や協定値を超過した件数が53件もあったことが明るみに出た。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07100/

■「分析」に関する規格要求事項

規格要求事項には下記の記載がある。

9.1 監視,測定,分析及び評価
9.1.1 一般
組織は,次の事項を決定しなければならない。
a) 監視及び測定が必要な対象
b) 妥当な結果を確実にするために必要な,監視,測定,分析及び評価の方法
c) 監視及び測定の実施時期
d) 監視及び測定の結果の,分析及び評価の時期
組織は,品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価しなければならない。
組織は,この結果の証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。

9.1.3 分析及び評価
組織は,監視及び測定からの適切なデータ及び情報を分析し,評価しなければならない。
分析の結果は,次の事項を評価するために用いなければならない。
a) 製品及びサービスの適合
b) 顧客満足度
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性
d) 計画が効果的に実施されたかどうか。
e) リスク及び機会への取組みの有効性
f) 外部提供者のパフォーマンス
g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性

実のところ、これでは「ルールを決めろ」と言っているだけで実際にどうすれば良いかなどは述べていない。会社が決めたことを尊重し、それを確実に行なっていれば良くてそれ以上のことを求めていない。

■経営に役立てるために

 単純にQMSというマネジメントシステムを配慮するだけでは不十分である。
 生産性などの様々な経営を左右する出来事を配慮して、監視すべき項目は何かを銀蒸しなければならない。規格で言う「監視及び測定が必要な対象」をどうやって決定したのか、それはなぜなのかを第三者にも説明できなければならない。

 現在入手可能だからと言って項目を決め手はならない。それは必要なデータを見逃すリスクが高い。
 データの信憑性にも配慮が必要である。
 抜き取り検査をしているのであれば、同一ロットの別のサンプルを別途保管し、別の第三者が検査することを検討することが望ましい。こうした、後で検証できるように製品や試料を保管することは規格には書いていない。

 規格を満たしているからと言って、漫然と検査をしているだけでは事故は防げない。

<閑話休題>

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