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世間に転がる意味不明:大阪万博の機能不全(まとめ。ちょっと長いよ)

昨年(2023年)は、大阪万博の記事が数多くあった。
おそらくは混乱や批判の記事の端を発したのは、その費用の増額であっただろう。費用負担もさることながら、いったいいくら必要なのかも分からない、どさくさ紛れの費用を含める、責任を問われても知らん顔をするなど、モラル的に疑問符がつくことが多い出来事だった。

マネジメントという側面、経営管理という側面から、企業ではあり得ないとしても、
他山の石としないように注意すべき点をまとめた。

■理念と現実のずれ

経営の教科書では、戦略展開の一貫性を求める。すなわち、なぜ我々はいるのかという企業理念、それを具現化した哲学としてのミッション・ビジョン・バリュー、組織の方向性を示す経営理念、成功に導くための戦略と、個別行動に移す戦術が相互に矛盾しないことを求める。

しかし、大阪万博ではそれが怪しい。

大阪万博のホームページを見ると、その理念として以下の記載がある。

○2025年大阪・関西万博がめざすもの
(1)持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献
 IoT(物のインターネット)、AI(人工知能)、ロボティクス、ビッグデータ、バイオテクノロジーといった技術により様々な地球規模の課題が解決される社会は、SDGsが達成された社会でもあります。

(2)日本の国家戦略Society5.0の実現
 日本の国家戦略「Society 5.0」 とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、
人間中心の社会です。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会を指します。

https://www.expo2025.or.jp/overview/purpose/

そうであれば、万博終了後に解体する設備にお金をかけるべきではないし、バーチャル技術で情報発信できるのであれば、特定の場所にこだわる必要は無い。

それが、解体を前提とした施設や、埋め立て予定地の整備のために予算化するというのは本末転倒である。

○建設費350億円の大阪万博「大屋根」、自見万博相「再設計考えていない」「日よけの機能も」
2023/11/10

自見万博相は10日の記者会見で、2025年大阪・関西万博の会場中心部に350億円かけて建設する環状の大屋根(リング)に関し、「再設計することは考えていない」と明言した。会場建設費が2350億円に上振れする中、大屋根の設計を見直す考えがないか質問を受けた。

自見氏は「リングは多様でありながら一つという万博の理念を示すシンボルで、万博会場にとっては欠かせない建築物だ」と強調した。その上で、「日よけの機能もあり、会場の熱中症予防の対策も期待している」と理解を求めた。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20231110-OYT1T50199/

日よけと「万博の理念」は全く関係なく、支離滅裂になって行く。

■無視される法令遵守と現実論

目的と手段が逆転すると、実行が目的化し現実に起きていることを無視しかねない。

○日本建設業連合会「限られた期間で完成できる建物の発注を」 大阪・関西万博の海外パビリオン建設遅れ
2023年10月20日

日本建設業連合会 宮本洋一会長
「開幕まで1年半を切った現状を踏まえると、工期の裏付けのある発注、すなわち、限られた期間で完成できる建物を発注していただくことが重要だと考えている」

また、宮本会長は「これから海外パビリオンの工事が一斉に始まると思う」とも指摘し、建設会場の移動ルートの確保や渋滞の解消といった課題についても、政府が調整するよう期待感を示しました。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/789916?display=1

それは、法令を二の次にするというモラルハザードを引き起こしかねない。

○日建連会長 大阪万博工事の“時間外労働規制の例外”に現時点で否定的
2023/10/20

工事が遅れ状況が差し迫っても日建連から規制の例外とするよう求めることはないかと問われると、「現時点ではない」としつつも「その時に会員企業からどんな要望がでてくるのかということは、その時に判断をしていきたい」と述べ、含みを残しました。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000320789.html

○万博、博報堂が資格停止後も継続 五輪談合で処分
2023/12/25

 談合事件を受けて府市は今年3月にかけて博報堂を指名停止とした。府議会では「博報堂が複数企業と交渉中だ。終了すれば速やかに協定を解除する」と答弁。4~5月に後継企業を公募したが応募はなかった。

 吉村洋文知事は「手が挙がらない結果、博報堂との契約継続はやむを得ない」と説明した。

https://nordot.app/1111932718081032282

■コンコルド効果

手段(万博開催)が目的(万博理念)を無視して何が何でもやるというのは、「ここまで来たのだから引き返せない」という主張が先に来かねない。

○<論壇時評>開幕危ぶまれる「大阪万博」 会場の夢洲自体が問題
2023年11月1日

2025年4月から、大阪市の夢洲(ゆめしま)で大阪・関西万博が開かれる予定である。しかし、開催まで1年半を切ったにもかかわらず、建設準備が大幅に遅れ、予定通りの開幕が危ぶまれている。当初、1250億円と想定されていた予算も、20年12月に資材価格の高騰などで1850億円に引き上げられ、現在はさらに450億円積み増して2300億円程度になるという。
 そもそも会場となる夢洲はゴミや建設残土の埋め立て地で、万博やIR(統合型リゾート施設)という用途を前提としていない。地盤はゆるく、有害物質が含まれるとされる。交通アクセスも限定されており、災害時や混雑時の危険性が指摘されている。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/285888

この記事の中で以下のように云う。

 この国のリーダーたちは、「立ち止まって冷静に見直すこと」「引き返すこと」ができない。新田次郎『八甲田山死の彷徨(ほうこう)』では、1902年に起きた八甲田山雪中行軍遭難事件が題材にされているが、ここでも雪中行軍の演習にこだわったリーダーが無謀な計画を強行し、210名中199名が吹雪で遭難、死亡している。不都合な予測やデータは見ないことにされ、根拠の乏しい楽観に固執する。

しかし、利益にだけ目を向けた人々は「コンコルド効果」から逃げ出すことができない。

○大阪・関西万博「行きたい」と答えた人は3割…課題は山積、巨額投資の成果は出るのか?失敗許されないビッグプロジェクトの“現在地”
2024年1月1日

 一方で、中小・ベンチャー企業は、国内外から多くの人が訪れるこの一大イベントに、商機を見出そうと期待を募らせている。大阪府・市などが出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」で展示を行う大阪商工会議所は、2023年12月、展示を行う事業者を決める選考会を行った。書類審査を勝ち抜いた全国の48の企業がそれぞれ自社の魅力をアピールし、計32の企業が万博での展示を決めた。

 NNN・読売新聞が11月に行った世論調査では、「万博に行きたい」と答えた人は全体の3割程度に留まった。万博の運営費1160億円の8割にあたる約970億円はチケット収入で賄われる計画で、現在2820万人を想定している来場者数が伸び悩むことになれば、赤字に陥る可能性もある。

 万博協会の石毛博行事務総長らは「万博の中止・延期はありえない」とする考えを示している。そうであるならば、さらなる費用の増額とはならないようにしながらも、国、大阪府・市、経済界が一体となって多くの人が訪れたいと思える魅力あるコンテンツを見出し、発信し続けなくてはならない。

https://news.ntv.co.jp/n/ytv/category/society/ytbf882605cf644639b1f83db3310e9be4

■責任のたらい回し

ここまで来てしまった以上引き返せないというのは、愚かな選択であることは自明である。
そしてそれは無責任な発言を生み出す。

○「庶民を怒らせる天才」経団連会長が「大阪万博350億円リングぜひやりたい」発言であふれる憤激「人の金だから」「万博もクラファンで」
2023.11.07

「僕は必要だと思う。リングは建設が始まっていると思う。2021年に(万博)協会会長を引き受けたんで、過去にどういう議論があったか詳しく存じ上げているわけではないが」

 大阪万博では、当初、シンボル的な建物を設ける予定はなかった。だが、会場デザインを務める建築家の要求で、2020年12月に「リング」が加わり、350億円をつぎ込むことになった。

https://smart-flash.jp/sociopolitics/260397/1/1/

すでに、費用面でも、接着剤や金属の接合を使うという伝統技術をかけ離れていること、閉会後は解体すると云うことをとっても万博の理念と合わない。

それでもやるというなら、「最初の経緯」を検証すべきであり、これをしないのであれば「いったん決まった以上やる」という無責任さにつながる。

そして自分の金でないから、「今更辞められない」「数だけはつじつま合わせをしろ」は、戦前の軍隊と同じである。それは、「俺は聞いていない」「俺には責任はない」という言動につながる。

○大阪万博 関西財界トップ、赤字になっても「穴埋めできない」
2024/1/1

関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は毎日新聞のインタビューに応じ、2025年大阪・関西万博の運営が赤字となった場合には「経済界が(穴埋めのために)資金を出すことは難しい」と述べた。

https://mainichi.jp/articles/20231227/k00/00m/020/426000c

○「責任と言われても…」万博の建設費また増額、苦笑する協会事務総長
2023年10月20日

協議後に開かれた記者会見。石毛氏は、建設費増額をめぐる協会の責任について問われ、「責任と言われても何をもっておっしゃるのか」と苦笑し、物価上昇やコロナ禍などを挙げて「想定外のことです。やむを得ないことだった」と述べた。

https://www.asahi.com/articles/ASRBN6R6RRBBOXIE02V.html?iref=pc_ss_date_article

■崩れる信頼

東京オリンピックでの賄賂の事件が札幌オリンピック招致を阻害したことは周知の事実であろう。これは、こうしたイベントがあると、必ず利害関係が発生し、それが不正の温床になることが一般的であるからだ。
 
もっとも、透明性が高く、いつでも検証可能であれば信頼が揺らぐことはない。しかし、行政に関わる人間がめちゃくちゃであれば信頼などできない。

○大阪IR“存在しないと言い続けてきたメールが見つかった”問題で市職員4人を懲戒処分 その上新たにメール7通見つかる 10/31

 大阪IR予定地の賃料鑑定をめぐって、大阪市が「存在しない」と言い続けてきた業者とのメール198通が見つかった問題で、市はメールをサーバーから削除した職員ら4人を懲戒処分としました。あわせてメール7通が新たに見つかったことも明らかにしました。

 総務局は「職員が意図的にメールを削除していたとは認められなかったが、公文書と情報の管理が不十分だったのは事実。上司と部下の意思疎通がしっかりしておらず、(課長も)知らなかった、では済まされない」として陳謝しました。

https://www.asahi.co.jp/webnews/pages/abc_22499.html

「職員が意図的にメールを削除していたとは認められなかった」訳がない。

○ふるさと納税不正疑惑の自治体が「資料は破棄」
「サーバー負荷下げるため」とあきれた言い分
2023/12/31

説明責任を担保するはずの行政文書が1年もたたずに捨てられていた。担当課の別の職員も上司である担当課長も、示し合わせたようにメールや資料を破棄していた。

https://toyokeizai.net/articles/-/724521

「築城3年落城3日」は、気づきあげてきたもの失われるのはたやすいことを示している。しかし、それは「誠実」に積み上げてきたことが前提である。前提条件は日頃からの真摯な活動であり、それが無ければ、はなから信頼はされない。

○ダイハツ、不正を30年以上放置 顧客軽視の代償大きく
2023年12月21日

ダイハツ工業の認証試験不正が、国内向けの全車種に拡大した。開発スピードが重視される中、「(試験の)不合格は許されない」との強烈なプレッシャーが、従業員を不正に走らせた。最も古い事案は1989年と、30年以上にわたり放置していた実態も明らかになった。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023122001171&g=eco

■自己都合の成果の主張

 こうした大規模なイベントを行政が行なうと決まって持ち出すのが「経済効果」である。しかし、経済効果は単一のもので生み出されるものではなく、発生する費用も複合的である。公共工事はGDPを押し上げる効果もあるが、資材の調達費用、人件費、その他の費用もプラス側の数値として評価される一方、税金の投入は財政の悪化も招く。全てをプラスとマイナスで一緒に評価しなければならない。「経済効果」だけを協調するのは間違っている。

○「経済効果」とは? 大阪万博の経済効果は?
2023.12.23

ある1つの産業部門は、他の産業部門から原材料や燃料などを購入し、これを加工して別の財・サービスを生産し、さらにそれを別の産業部門に対して販売します。購入した産業部門は、それらを原材料等として、また、別の財・サービスを生産します。このような財・サービスの「購入→生産→販売」という連鎖的なつながりを表したのが産業連関表です。 産業連関表の仕組みを利用して、ある産業に新たな需要が発生した場合にどういう形で生産が波及していくのかを計算することができます。

たとえば、大阪府のGDPは40兆円程度であり、うち半分強が消費によって生み出されていますので、万博によって大阪府内の消費が10%押し上げられると仮定すれば、それだけで2兆円の経済効果といえるわけです。

とはいえ、このような数字は鵜呑みにしてはいけません。たとえば、先程簡易的に算出した例だと2兆円の経済効果となりましたが、そもそも万博によって大阪府内の消費が「10%」押し上げられるという仮説の正当性が全く分かりませんよね。つまり、計算に用いる数字をどのように設定するかによって、いくらでも結論は変えられるということです。

https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-6493/

自己都合の相関と因果とこじつけは説得力の欠ける議論を跋扈させてしまう。

○万博機に「もうかる」関西経済へ 経済白書、構造転換を提唱
2023/10/6

民間シンクタンクのアジア太平洋研究所(APIR)が発刊した令和5年版「関西経済白書」は、関西経済の地盤沈下に対して「もうかる」産業構造を考察。7年の大阪・関西万博を機に、課題解決と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の技術を掛け合わせ、新ビジネス創出につなげるよう提唱した。

関西はなぜ東京一極集中をとめられないのか。4年版の白書はその原因を「投資不足」と指摘していた。今回は産業構造に焦点を当て、日本有数の生産基盤を抱えながら、環境変化に適応できない関西経済の実態を浮かび上がらせた。

白書によると、売上高から経費を除いた「付加価値額」の平成27年の全国シェアは、南関東(東京都など1都3県)が35・0%に対して、関西(大阪府など2府5県)は16・4%にとどまる。

https://www.sankei.com/article/20231006-OFRU4QVT4FKXXHAR6GATDAESDA/

さて、この記事は「なぜ」と感じさせる内容が含まれている。

①関西はなぜ東京一極集中をとめられないのか

これは何を意味しているのかと言えば、関西を東京と同程度の経済圏であるべきであると言う思い込みが前提にある。そうしないといけない理由が分からない。私から言えば、「ひがみ」でしかない。「我は我なり」が貫けないだけである。かつての「都構想」も同じ発想であろう。

②「付加価値額」の低さ

付加価値額は、いくつかの計算式があるが、事業戦略の評価時つくとしては下記も加算法が比較的よく使われる。

付加価値額=人件費+賃借料+金融費用(借入金や社債など)+税金+当期純利益

もし付加価値額を増やしたければ、まずは「人件費」を上げるべきである。その上で利益を出さなければ、たこが自分の脚を食っていいるようなものである。健全な経済活動ではない。

労働分配率に目を向けるべきであり、これが低い状況のまま関西の経済を活性化しても意味は無い。なぜなら、誰も裕福にならず、幸せな人も増えない。そんな都市に誰がすみたいと思うだろう。

■現実論を無視した先には何が待っているのだろうか

○大阪万博、海外パビリオン年内着工はゼロと確定
2023/12/21 21

2025年大阪・関西万博の海外パビリオンの建設が遅れている問題で、年内に着工する国がゼロと確定した。日本国際博覧会協会の幹部が21日、取材に明らかにした。複数の国が24年1月中旬ごろの着工を予定しているという。

https://mainichi.jp/articles/20231221/k00/00m/040/337000c

2024年1月現在、能登半島沖地震での災害はまだ収束の糸口すら見えていない。
これから復興と云うことになれば、建設機械の取り合いや技術者、労働力の奪い合いになる。建築資材も高騰するだろう。

万博の建設遅れは、資材価格の高騰などで建設業者との契約が難航していることが理由と言われている。

さらに膨れ上がる予算が想定されるのに「撤退戦略」がない大阪万博に未来があるとは思えない。辞めるなら早い内が良い。

(2024/01/05)

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