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ISO9001と経営:審査員の節穴問題と心の弱い人々(愛知製鋼の不正問題)

■教訓として

単に非難するのではなく教訓として見てゆくことも必要であろう。

○トヨタグループの愛知製鋼、28年前から「規格」満たさない鋼材出荷…機械の精度低く
2023/05/17

知多工場(愛知県東海市)で生産された長さ6メートルの鋼材について、規格では許容する長さの誤差を「プラス40ミリまで」としていたが、「プラス60ミリまで」の製品を出荷していた。切断用の機械の精度が低かったことから、長さを検査する装置の設定を変えていた。

 取引先から3月に指摘があり、社内調査で少なくとも1995年から不正が続いていたことが判明した。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230517-OYT1T50221/?from=smtnews

非難することは簡単ではあるが「なぜ」を考えないと問題の本質は見えてこないかもしれない。

■論点1「長さを検査する装置の設定を変えていた」

これは最初からなのか、それとも途中からなのかで少し事情が異なる。
文字通り読めば「許容できる誤差以内に切断できるほど切断用の機会の精度が高くなく、40ミリ以内としてもそれを越えてしまうことがあり、60ミリまでなら管理できる」というように読める。

しかし、「顧客要求事項を満たす」製品を実現するための設備がないのであれば、まずは下記の要求事項を満たしていないことになる。

7.1.3 インフラストラクチャ
組織は,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない。
注記 インフラストラクチャには,次の事項が含まれ得る。
a) 建物及び関連するユーティリティ
b) 設備。これにはハードウェア及びソフトウェアを含む。
c) 輸送のための資源
d) 情報通信技術

さらに、これが最初からそうであるならば、下記についても怪しくなる。

8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
顧客に提供する製品及びサービスに関する要求事項を明確にするとき,組織は,次の事項を確実にしなければならない。
a) 次の事項を含む,製品及びサービスの要求事項が定められている。
 1) 適用される法令・規制要求事項
 2) 組織が必要とみなすもの
b) 組織が,提供する製品及びサービスに関して主張していることを満たすことができる。

■特別採用の罠

こうした事態が起きるもう一つの遠因として「特別採用」がある。

あるときに、40ミリ以内の製品が出たときに「40ミリは超えていますが60ミリ以内であり、品質に問題は出ないので特別採用として受け入れてくれませんか?」というやりとりを顧客と行い「了承」されたケースである。

特別採用は一時的なものであり、出荷時の承認が必要になる.特別採用でもないのに他の顧客に対しても同様な処置をしていれば問題である。

長い年月とともに引き継ぎも何もなされていない場合に起きうる。
このぐらいいいだろうということは、再び問題を引き起こす火種になりかねない。

○愛知製鋼、規格外の特殊鋼鋼材の出荷が判明 性能や安全性に問題なし 第三者委員会設置し原因究明と再発防止
2023.05.19

 トヨタグループの愛知製鋼は17日、特殊鋼鋼材の一部で顧客要求仕様の上限を超える長さの鋼材を出荷していたと発表した。3月上旬に納入先から指摘を受け、社内調査で判明した。性能や品質、安全性に問題はないという。

https://www.netdenjd.com/articles/-/284837

■論点2:「少なくとも1995年から不正が続いていた」

しかしとも思う、「記録」はどうなっていたのだろう?
記事から見ると、「40ミリ以内でないことが分かる記録」になっていたのだろうか?
もしそうだとしたら、「40ミリ以内」という規格を作る側も受け取る側も知らないか、もしくはそれでも良いと思っていたのかもしれない。

悪意がないとしたら「無知」のせいだと読める。
しかし、30年近くも放置されていた理由が分からない。

■節穴審査

仮の仮定ではあるが
・規格は60ミリメートル以内と組織側が認識していた
・要求規格が明文化されていない
としたら、審査の過程では「合意された要求事項」を確認しなければならない。
もしこれを第三者認証での審査で怠っていたら「節穴審査」と言われても仕方ない。

しかし、上記のように「特別採用の発生したときの」顧客のやりとりを公式な文書として提示されてしまうと、それの契約プロセスを見なければいけなくなる。限られた時間での審査の中で確認することは後回しになる恐れがある。

経験的には、時間内に確認できないことも多く、「節穴審査」になりかねないことは否めない。

しかし、内部監査になるとそうは行かない。本来は、内部の規格の問題である以上、組織にいるヒトであれば分かるはずである。しかし、実体はそうはならない。経験的に内部監査は規格要求事項を満たしているのかのチェックにとどまり、上記のような業務内容まで踏み込んだ内部監査はされていない。

個人的には、「これ以上余計な仕事はしたくない」というドライブが働く。人の性向を「性善説」「性悪説」で区分することがあるが、上記のようなことは「現状を変えたくない」と言うことに対してあがなうことができるかどうかの「心の強さ」がものを言う。

多くの人は「心が弱い」ので、内部監査にしても認証審査にしても踏み込むことができないのかもしれない。

30年もの間見過ごされてきたことに対して考えないと、会社の長い歴史の中で再び同じことが起きる。

<閑話休題>

(その他の記事)

○愛知製鋼、規格外れた鋼材を出荷 トヨタグループでまた検査不正
2023年5月17日

今年3月に主要顧客からの指摘で発覚。社内調査を行ったところ、JIS規格で出荷する鋼材については2016年に検査基準を是正したが、各顧客の仕様にあわせて出荷する製品については契約にあわない検査基準が放置されていたことが分かった。不適切な運用は、少なくとも1995年から続いていたという。

 不適切な運用は経営陣も把握していたが、監督官庁である経済産業省などへの報告はしていなかった。是正を後回しにした理由は「長さがちょっと長めでも大きな問題はないという、勝手な判断があったのではないか」(中村元志副社長)としている。

https://www.asahi.com/articles/ASR5K6G48R5KULFA02Z.html?ref=smartnews

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