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晴耕雨読:「学習する組織」(組織は個の集団である:自己マスタリー、第8章)

■はじめに
 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。
 それでも、この本は経営革新には以下の事項が必要だと断じている。

(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン

(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習

(3)「複雑性の理解」
・システム思考

 今回は、その中の「自己マスタリー」について確認してゆこう。
 第8章になる。

■序文(P40)での説明

 自己マスタリートは聞き慣れない言葉ですが、下記の説明が最も的をえていると思う。

- 自分自身が心底から望むビジョンや目的の実現に向けて、真剣に生きようとするプロセス(過程)を「自己マスタリー(Personal Mastery)」と呼びます。ピーター・センゲらが提唱する「学習する組織」を実現する5つのディシプリンの1つです。

- 「マスタリー」とは、高いレベルでの習熟を意味します。「自分がどうありたいか」という個人ビジョンと、現実の姿の間にあるギャップが、「クリエイティブ・テンション(創造的緊張)」を創り出し、それが個人の学習と成長、そしてビジョンの実現に向けた大きな推進力となります。

https://www.humanvalue.co.jp/keywords/self-mastery/

これを参考に「自己マスタリー」の説明(P40)を抜粋する。

- 自己マスタリーというディシプリンは、継続的に私たちの個人のビジョンを明確にし、それを深めることであり、・・・そして、現実を客観的に見ることである。
- 自己マスタリーは学習する組織の精神的基盤である。
- 組織がどのくらい学習に対してしっかり取り組み、学習できるかは、構成するメンバーの取り組みや学習能力よりも高くならない。

■自己マスタリーとは何か

 第8章の冒頭に以下の記述がある。

「個人が学習することによってのみ組織は学習する。個人が学習したからと言って必ずしも「学習する組織」になるとは限らない。が、個人の学習無くして組織の学習なし、である。」

しかし、この後の記述を見ても「自己マスタリーとは」という定義めいたことは記載されていない。唯一
「自己マスタリーも人生のあらゆる局面における-個人的にも職業上も-特殊なレベルの熟達を指す。」
と言う説明があるだけである。

これでは説明になっていない。個人個人が能力を高め熟達したレベルに到達することが必要だという説明では、指針にはなりえない。
漫然と仕事をする凡庸な集団では卓越した成果を出せないと言う説明は何も生み出さない。

おそらくは、自己マスタリーの重要性は
・自分にとって何が重要かを絶えず明確していること
・どうすれば今の現実をもっとはっきり見ることができるかを絶えず学ぶこと
に表現されうるだろう。これが「個人のビジョン」が重要であるという冒頭の説明につながる。

 結局の所、「自己マスタリー」は、彼らにとって普通の言葉なので説明がされないと割り切った方が良いと言うのが私の意見である。

■自己マスタリーを理解するための概念

この章ではさかんに「創造的緊張」と言う言葉が出てくる。それは「ビジョン」との対比で語られる。

「ビジョン(私たちがありたい姿)と今の現実(ありたい姿に対する現在地)のはっきりしたイメージを対置させたときに「創造的緊張」(クリエイティブ・テンション)と呼ばれるものが生まれる。創造的緊張は、ビジョンと現実を結びつける力であり、解決を求めて自然に引っ張り合う力が働くことで生まれる。自己マスタリーの本質は、自分の人生においてこの創造的緊張をどう生み出し、どう維持するかを学習することだ。」

という説明ですべてをカバーしている。こうした状態にするためにはいくつかの注意点がある。

・目的のないビジョンは単なる思いつきになる。ビジョンとは単に良い考えではなく天命でなければならない。天命(目的)を達成するための具体的な映像イメージである。
・常にビジョンは現実のその先にある。そのため、実現するためには努力と時間がかかる。その結果、目標を下げると言う妥協に走る恐れがある。
・こうした緊張(もしくは抵抗)は常にあるので、これをビジョンを維持することが重要である。

■自己マスタリーの原則

(1)個人ビジョン
個人ビジョンとは何かという説明はない。逆に個人ビジョンではないことの説明がされている。
・ゴールや目標はビジョンではない。それらのほとんどは現実逃避になる。今のつまらない仕事から逃れたいという願望を描きがちになる。それはビジョンではない。
・結果ではなくプロセスに重きを置くこと。「高い市場シェア」という二次的な目標ではなく、究極的な本質に焦点を当てること。

「ビジョンと目的は違う。目的は方角のようなもの、全体的な進行方向だ。ビジョンは具体的な目的地、望ましい未来像である。目的は抽象的で、ビジョンは具体的なものだ。」ということが著者の主張になる。

(2)創造的緊張を維持する
創造的緊張については下記の説明が簡潔であろう。
「ビジョンと今の現実の乖離はエネルギー源でもある。乖離がなければ、ビジョンに向かって進むための行動を起こす必要もないのだ。それどころか乖離こそが真の創造的エネルギーに源である。この乖離は創造的緊張と呼ばれる。」

創造的緊張を維持することは難しい。なぜならば、簡単に実現できないからこそのビジョンであるために時間がかかる旨く行かないことを「失敗」と捉え、ビジョンの水準を下げかねないからだ。

並行して重要な要素として「鋭い洞察力で今の現実を正確に把握すること」も求めている。客観的で事実に向き合うことで創造的緊張を維持できる。

※「真実に忠実であれ」はP219に記載

(3)構造的対立に向かう
「私たちを目標に向けて引っ張る緊張(創造的緊張)と私たちを根底にある信条に限定する緊張の両方が作用しているシステムを「構造的対立」と呼ぶ。

これは下記の背景がある。

「子供の時、私たちは自分の限界がどの当たりにあるかを学ぶ。生きていくために不可欠な限界を子供が教わるのは当然だ。しかし、この学びが一般化されてしまうことがあまりにも多いと、あれはだめ、それをしてはいけないと言われてばかりいるせいで、私たちは欲しいものを手に入れる能力がないと決めてかかるようになってしまう。」

これに対抗するには、基本戦略が上げられているが、これをそのまま鵜呑みにすることは望ましくない。各自で確認して欲しい。(本文はP217付近)

■組織がすべきこと

こうした状態を創り出す組織側の取り組みとは何だろう。
この章の最後には

「メンバーが安心してビジョンを描くことのできる組織、真実の探求や真実に忠実であることが当たり前になっている組織、現状に対して異議を唱えることが期待される組織を築くことだ。」とし、
・個人の成長が本当に尊重されているという考えが繰り返し強化され
・一人一人が提供されるものに応じさえすれば、自己マスタリーを上達させる上で欠かせない職場内訓練が提供される
組織が求められている。

■自己マスタリートは

結局の所、個人ビジョンを実現させるための卓越した能力と言ったところだろうか。
最初の文にあるように、個人が学習するという資質を持っていなければ組織は学習するわけではなく、そのための環境を組織が用意することが求められている。

正直、「で?」という内容だが、もう少し読み進んでみよう。
次回は、「第10章 共有ビジョン」になる。

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