水車ダンマス編 第4話

104 1森の賢者 2賢者続き 3水軍航空戦 4巫女の呻吟 5連合軍の真空気球と不活性硫黄 6

 憎しみより恐れが勝ったのだろうか、それともゴブリンが元々根に持たない質であったからだろうか、神樹の意向を受けた森人を介したダンジョンマスターとの和解をゴブリンは受け入れた。会談に適当な場所が無かったため、ゴブリンの集落の外縁東側に東屋を設え会場に当てた。
 ゴブリンの長、空軍からは目付として俺の他に集落奪還作戦に参加した少尉、当事者ではなかった森人の長が仕切り担当で参加した。代理を派遣すると思われたダンジョンマスターもぷよぷよと浮かぶ黒い球体を伴って参加した。
 ダンジョンマスターがゴブリンの集落に与えた被害は甚大で、生き残った仔を産む事が可能な雌は僅かに二頭、幼体をいれても五頭に過ぎない。集落の返還をしても、存続は危ぶまれる。
「あれだ、ダンジョンてモンスターや亜人の召喚できるんだろ?ゴブリンの召喚出来ないか?」
 実は森人達も元々召喚されたのらしい。あと隣国の鉱山ドワーフとかもそうだとか。
「うちのダンジョンは人族しか呼べないのです」と、ダンジョンマスター。
「それは珍しい、唯一人族だけが召喚できないとされているんだが」
 そういやシャオが歪なダンジョンと言っていたな。少尉が手をあげた。
「不細工なゴーレムは召喚できるのに?」
「あれは手作りです」
「ゴーレムマスターか!しかし、あんなに沢山コントロールできないだろう」
 あ、あー少尉君、相手は一応元首格なんだから、敬語つかおうね、て俺もか。やば、範を垂れねば。
「こほん、その辺どうなのであらせられ遊ばすのですか」
 うん、俺敬語まるっとだめだったわ。ダンマスは意味が取れなかったようで黒い球体をみた。
「わたくしからご説明します」球体が言った。

「本来ありとあらゆる物が召喚可能ですが、その為には厳密な設定と十分な魔素、正確な手順が必要になります」
「勿論、マスターが[コア]と呼ぶ、わたくしのようなダンジョンに紐付けられたプロシージャ=制御機構内部での話です」
「ゴーレムに付いては、不備がある為召喚出来ませんがマスターの制御を中継し、プロセスを複製する事で多数制御を可能にしています」
「ゴブリンに付いては、一般的なダンジョンであれば、生死に関わらず一頭分の素材があれば召喚の要件を満たしますが、我がダンジョンに於ては存在に幾許かの不具合がある為、少なくとも一頭の完全に眷族化した個体が必要になります」
 ちょと待て、それってゴブリンに奴隷になれって事か?当のゴブリン達は話に着いていけずぽかんとしている。
「当社は家庭的な職場です」ブラック企業じゃねーか。
 とまれ、波乱を含みつつ問題解決の糸口はついた。ダンジョン側はゴブリン集落を含む一帯を安全保障と人権ならぬゴブリン権の保証を条件に支配領域として認められた。監視も必要と言う事で、森人と共和国が後見となり、集落に駐留する事になった。
「少尉君、君を駐留武官に任ずる。一個分隊付けるからよろしくな」
 泣きそうな顔して敬礼しないの、昇進させてあげるから、て名前なんだっけ。
 意外な事にゴブリン達は眷族になる事を了承した。強い者の下に付くのは寧ろ歓迎らしい。

「こんなの聞いてないぞ!」
 中隊指揮官はつい怒鳴った。水軍航空隊は始めてみる円盤機に翻弄されていた。救いは円盤機の数が少ない事だ。
「性能は良いが乗ってるのは素人だ、落ち着いて囲め!」爆装機が何機か落とされた。
(くそ、旋回性能良すぎだろ)
 浮力を切っての急降下も水軍機には制限がある。翼が持たないのだ。小一時間掛けて漸く殲滅した時には、ペダルを踏む足がガクガク震える程疲れきっていた。
「一個中隊、総掛かりで、たった四機撃墜って、勝った内に入るんですかね」
 帰投中に二番機から秘匿通話がはいった。
「勝ちは勝ちだ」
 憮然とした声だと自分でも分かる。勝った気がしないのだ。三倍の戦力でこれだ。同数ならどうなる。速度はこちらが上だから戦い様はあるが、練度の足りてない者は落とされかねない。何より護衛の役が果たせるのか?四機で一個中隊翻弄できる。八機いればどうなる。敵も一個中隊なら、爆装隊は全滅だ。
 爆装隊から礼の通話がはいった。
「すまん、爆装隊に被害を出させてしまった」
「気にするな、敵も命がけだ」
 それより、と言うことには、撃墜されたと見えた機体のうち三機は脆弱な主翼を破壊され低速で避退中らしい。
「そっちの護衛頼めないか、ほらうちの中隊空戦苦手だし」
 爆装隊の指揮官は同期で階級も同じ大尉だ。気安く了承して自分の分隊で行くことにした。
(皆疲れきってるからな)
 一刻も早く帰投したいだろう。
 実際に落ちたのは二機だそうだ。

 シャオは不思議に思う。歪な結節点のプロシージャはなぜあんなに人間的なのだろうか。こちらのプロシージャである神樹はなぜこう迄、歪な結節点とのリンクを強化しようとするのか。
 世界の情報を満遍なく集めるなら、もっとフラットに検索網を拡げようとするのではないか。明らかにバイアスがある。しかし、それがどう言うものか、シャオにはまだ見えてこない。

「こいつぁ、巧い事考えたな」前線から届いた円盤機のラフスケッチを前に工廠長のケナイ・モヤ・ラーガ准将が嘆息した。こいつもいつの間にか昇進してて将官になっていた。俺が任官した筈なんだよな、いつだっけ。
 件の円盤機はパンケーキのような気室の上に紡錘型の胴体を載せる形で胴体を挟む様に二本の太い筒が着いている。
「これは中にペラを仕込んであるんだろう。爺さん!ちょっと来てくれ」
 面倒臭そうに隣国から拉致って来たドワーフの爺様が寄ってくる。
「あぁ、ダクトファンじゃな」
「知ってるのか?」
「気球用に儂が拵えたもんじゃ」
 羽ばたき機の激しいアップダウンの対策として試作したが、出力が足りずオクラになっていたらしい
「昨今の出力変動と真空圧縮で陽の目を見たか」
 あー、やっぱり真空圧縮拡散してる?
「水素ガスじゃこんな形状無理だろ?浮力も足んねぃし」 じゃ硫黄の不活性化とかは…。
「あっちの方がもっと簡単にぱくれるぜ?」
 だよねー。真空圧縮の方は魔石の複製自体困難だからシャオの魔石をどうにか使える様にしたんだろう。パンケーキ型の気室も苦肉の策が意外にいけた、みたいな感じか?だが硫黄魔石は分かってしまえば鼻歌で量産出来る代物だ。こりゃ陸軍に注意しとかないと。
 この後爺さんからダクトファンのレクチャーを受けた。「この筒の後ろが舵になってるのじゃよ」
 成る程これなら超低速でも向きを変えられる。噴進機でも使えないか?工廠長も顎に手をやって考え込んでいる。例えば上昇反転で浮力を切って行き足を殺す。舵の効くギリギリのところで旋回するわけだが、この時噴流の向きを直接変えたらどうよって話だ。
「少尉!こっちこい!」
 担当官決めたようだ。

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