水車 第二章 第8話

 「おちねぇ!」前席の射手が叫ぶ。これこれ、司令が乗ってるんだから敬語使おうよ。なんか、クルー仲間だと思われてる節あるなぁ。身体を捻って前方を見る。肩ベルトが邪魔だ、緩める、ありゃ片っぽ外れた、ま、いいや腰ベルト締まってるし落ちることは無いだろう。…落ちないよね?
 射手の狙いは正確でほぼ命中している様だ。タンクに穴を開けたと思しき証拠の白煙も数条見える。しかし、付与によって開く筈の大きな破口が見当たらない。
 水素反応ボルトが活性化しないのは当然としても、敵の魔法防御を掻い潜る為複数の種類の付与ボルトを使用している筈だ。それが全部防がれている。
 「ウルクハイみたいな気球だぜ!」操舵手がわめく。
 気球じゃないし。
 「あー、無理に落とさなくても良いからねー、そろそろ退散しないと増援来ちゃうしー」敵が離脱を試み続けているお陰で敵空軍拠点に大分近付いて仕舞っている。列機にも遠話函で撤収命令を出し帰投した。

 兵部省に帰投するとウルクハイ討伐の報告に准尉が来ていた。いや、そんなの書簡でちゃちゃっと、え?兵曹の進言?ライバル多いんだから出来るだけ顔を売っとけと?
 なら、ま、いいか、ご苦労さん。会議あるから控え室で待ってて。で、なんで、あんたまでいるの、シャオ?
 「重要報告、便乗」報告があって、准尉の連絡艇に便乗したのね。じゃ、シャオも……、あ、聴きたい事有ったんだ、一緒に来て。
 後すざるシャオを准尉に確保して貰って会議室に連行した。准尉は…、ま、いいか。これも経験だし、後ろの席に座って貰った。
 「それはウルクハイと同じ、これが原因」敵機に付与ボルトが効かなかった事を報告したら陸軍から同様な発言が合って、シァオに意見を求めた。
 取り出したのは硫黄の鉱石で不活性化してあると言う。
 「魔素を吸うのは知っているが、防御に使える程の速効性はない筈だ」取り扱いに慣れている水軍の元帥が指摘した。
 「もう一つ」今度は湯石を会議卓の上に置いた。「相乗効果」とことこと歩き出すシャオ。長官の後ろに有ったボードを皆の見易い位置まで引きずり出すと徐に何やら書き出した。字ちっさ。

 「これは人間が魔素を取り込む式」そういや習ったわ。「ウルクハイはここがこう違う」一部をざざっと消すとどこか見覚えの有る式に書き換えた。これって真空圧縮の一部じゃね?
 「魔素を圧縮している」人間とかの魔素を操る生物は硫黄の同族である塩素に魔素を吸着させている。硫黄と違って割りと簡単に魔素を取り出せるのでそうなってるのだそうだ。
 取り込んだ魔素を圧縮すると吸収は加速する。ウルクハイの周辺には魔素の真空地帯が発生する。そこに飛び込んだ[魔法]は瞬時に霧散する。
 「隣国は水車から防御式の一部を削った」水車は術式の塊だ、ある意味魔素で出来ていると言っても良い。硫黄と同族の元素を排除する術式がありそれが削られたと?
 「あの塩素発生の原因って」頷いてシャオ「削られた防御術式」
 恐らく硫酸の形で硫黄を供給された水車は、硫黄を排除できず躯体の一部として取り込んでしまう。魔素欠乏に陥った水車は周辺から急速に魔素を吸い込み出す。
 「高性能にもなる」一方で異物を感知し吐き出そうと熱量をあげる。
 「まて、魔素を吸収し続けるとどうなる」
 「ウルクハイはどうもならない」塩素は塩の形で存在し常に交換されている。
 問題は水車、「臨界に達すれば崩壊する…」「…世界ごと」

 それじゃ自然界の硫黄はどうなんだ?と訊けば、臨界を越えれは一気に魔素を吐き出す為、問題は無いらしい。被曝とかは?「離れていれば良い」
 水車の場合術式の仕様もあって臨界を越えれば、爆縮がおこる。その際躯体を保持していた物質は磨り潰されエナジーに変わる。
 完全にとはいかないだろうが、仮に数パーセントの質量がエナジーに変換されただけでも、大都市がまるまま、クレーターになる。
 しかし、困ったぞ、勇者の侵攻を止めるだけじゃ足りなくて、高性能水車の使用を辞めさせないと行けない。ムリゲじゃね?
 「世界の危機は分かった。取り敢えず王国の危機を脱する算段に戻りたいが良いか」卓を叩いての長官の発言で騒わめきは、徐々に収まった。勇者軍への対策は簡単だった。敵も付与が使えない。なら、付与無しの矢弾で対抗すれば良い。問題は時間だ。準備間に合うか?「離れた所から高速で打ち出せばあるいは」
 会議は続くが空軍は遅滞作戦あるんでお暇します。

 准尉に伝令を命じた。森に帰投する前に軍府に寄って、全軍王都に集結するように参謀長に伝えてね。森の防衛は一個小隊だけ残して、陸戦隊も連れてお出で。
 て、討伐の報告聴くの忘れた。ま、いいか、それどこじゃないし。さてと、兵曹!偵察いくよ!

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