水面下の研究

結構専門的な話になってしまいます。
「水面下の研究」ということばがある。連珠で言うと、表舞台(この場合は現実の公式戦)に出てくることはないけれどいつの間にかその筋の多くの人たちによって暗黙の了解となっている研究局面の数々のことを指す。先日の挑戦手合い2局はその一例で、前例だけを見ているとあたかも突然あの局面が出現したかのように思われるが、実際には出現に至るまで流れがあり、その筋の人的には「まあいつか誰かが公式戦でやるよね」という局面として認知されていて大きな驚きはなかった。水面下の研究は、2020年以降多くの地域で連珠の大会が自粛傾向となってもそれは淡々と続いている。というより加速しているように思う。
今日、以下の局面を調べていた。

前々からこの局面について特に興味があったわけではないが、興味が出たのは以下の棋譜に起因する。

Correspondence Renju World Championship(以下CWC)という大会の一局である。現実の大会と違うのは、持ち時間が非常に長いことと、検討自由、ソフト使用可という点だ。連珠には実戦を全くやらずに局面研究だけをするいわゆる研究勢とか解析勢といわれる人たちが一定数いて、創設当時はもっと違う意図があったように思うが現在において彼らにとっての表舞台にあたる大会である。連珠に携わる者としての私の位置づけはあくまでリアルトーナメントプレイヤーである。局面研究においては通常彼らのほうが2つも3つも先をいっている。そうした立場の私としては、このトーナメントを彼らの「本気」を見ることができる場として、「世間の流行」をチェックするのに役立てている。こういった表現をするのは、現代において通常真面目な研究は秘匿されるものだからだ。このRenjucaffegamesというサイトでは多くの解析勢が対局しているが、通常彼らの残す棋譜の多くについて意図的に本来の研究手順を外しているのかもしれないという前提で見る必要がある。鵜呑みにしてしまうとそのまま負けてしまう可能性もあるということだ。実際に棋譜を検証するとわかるが、Katagoをちょっと使用したくらいでは簡単に行きつかないレベルの研究をポイポイ出してくるので、現代のKatagoがいかに神のような強さを得ているとしてもそれすら鵜呑みにはできない。
上記の対局では「どうやら白10がダメで変化しなければならない」というやりとりがなされている。普通にKatagoを使っていると多くの人は以下の図にたどり着くと思う。

私は上図を白10に打った時の最善図と認識していたため、上記の投了を見たときには非常に驚いた。「流行に後れていた」というやつだが、これはCWCというトーナメントプレイヤーでも割とチェックする場所に出てきてくれたからまだいいほうで、こういった場にすら出ないでソフト最善を鵜呑みにして、一発食ってしまうことも少なくないだろう。少し前に台湾名人戦で上記の戦型が出てきた。そのとき白は躊躇なく白10で別の場所に打っている。仮に上図Katago最善を認識しているなら、こちらのほうが白からの変化も効いて実戦的に勝ちやすいと思う。それでも躊躇なく一本道の変化を選択していた。その対局はCWC以前のものだが、ということは上述した内容は対局者二人にとっては既に暗黙の了解だったということになる。トッププレイヤーの研究というものは実に深いところまで行き届いているなと感心した。
トーナメントプレイヤーとしてRenjucaffegamesは使い勝手が非常によいが、「観る珠」視点としてもどういった戦型が流行しているか、狙われるかを漠然とでも理解するのに適しているため、興味のある方は内容がまったくわからなくとも見てみるのをおすすめする。

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