電車
高2の秋、付き合った1歳年上の彼とはいわゆる遠距離恋愛だった。
私の親は転勤族でその影響で色々なところを転々としていた。物心ついたときからそんな感じ。
彼もその中で出会ったひとりで転校する前は2人きりではなかったけれどみんなで遊びに行ったこともあった。
ずっと好きだった。
「付き合う?」
転校してから約半年経って、そう言ってきたのは彼。
付き合ってからは毎日LINEをして、たまに電話なんかしたりして、会いたい気持ちだけ募らせて、けれど高校生で、ましてや彼は大学受験を控えた大切な時期。
彼も私もまだどうしようもなく子どもだった。
徐々に彼からの連絡は返ってこなくなって、別れ話を切り出したのは私から。
「別れたかったら言ってね。」
数分して、スマホの通知音が鳴る。
怖くて見れなくて、しばらくしてから恐る恐る見ると、
「別れよう」
2月、電車の中でのこと。
こうして私の恋はまたひとつ、簡単に終わりを告げた。
彼と再会したのは2ヶ月後。
大学生になった彼は隣の県に引っ越してきた。
たまたまお互い暇な日が被って私は半ば強引に彼に会いに行った。
また付き合えるなんて思わなかったし望んでいなかった。
けれどそうしないと彼にちゃんと会わないと私の気持ちは収まりそうになくて、気がついたら私は彼の前に立っていた。
まだ肌寒い見慣れない街をふたりで歩いた。
ふらっと立ち寄った雑貨屋さんで彼が見つけた変なぬいぐるみに笑って、何を食べるかふたりでしばらく悩んだりした。
映画館においてあるフライヤーを眺めて
「あ、これ私が見たいやつ」
「俺もそれ気になってんだよね」
なんて言葉を交わす。
次の約束にはならない。
帰るために駅に向かってる途中、不意に彼が私の手を握った。
驚いて顔を見ると、いたずらっぽく、でもどこか悲しそうに笑う、大好きだった彼がいた。
涙腺が揺れるのを感じたけれど
「なにしてんの」
と笑って目を逸らし、その手を握り返す。
たったそれだけ。
少しだけ歩くペースを落として、ほとんど何も話さず、彼と私は駅に向かう。
繋いだ手はどちらからともなく名残惜しそうにゆっくり離して、最後に少し指先に力が入る。
その小さな抵抗が彼に伝わったのか、彼は繋いでいた手で私の頭を軽く撫でた。
電車の時間に背中を押されて改札を抜ける。
もう、届かない。
時間通りに来た電車は、ぐんぐんとスピードを上げて彼の住む街から遠ざかる。
もう二度と会えないことは分かっていて、眺めていた外の風景が静かに滲んだ。
これが彼との初めてのデート。
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