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【MLB】なぜ、ゲリット・コールは痛恨の一発を打たれやすいのか。

2019年オフ、それまでFAでしばらく大物を獲得していなかったヤンキースがワールドチャンピオンになるために満を持して球団史上最高額となる9年3億2400万ドルで契約した先発投手、ゲリット・コール。
ヤンキースでの3年間は一度10日間の故障者リスト入りしたのみで、年間を通じてローテーションを死守。平均投球回数も6回を超えており、今のMLBの中では非常に貴重な存在であり、ヤンキースのエースとしての責任を全うしている。
また、特に今季は257奪三振でタイトルを獲得。2位のシーズに30個の差をつける圧勝で、球団の記録も更新した。
プレッシャーが大きいニューヨークで、複数年にわたって常に長いイニングを投げ、三振を奪い続けるパワーピッチングをしている先発投手は、ここ20年ではロジャー・クレメンス、CC・サバシア、そしてこのゲリット・コールくらいである。

ただ、コールには最大の欠点がある・・・

一発病である。


2021年のワイルドカードゲームで序盤にボガーツ、シュワーバーに一発を浴び、大事な一戦でKOされたことはいまだに記憶に新しい。

今シーズンも懸念通りツインズ戦での先頭打者からの3連発や、

大谷に逆転3ランをバックスクリーンに運ばれるなど、MLBトップの計33被弾。プレイオフでも3発を食らっている。

コールはデビュー当初はシンカーを使うゴロ系の投手だったものの、5年目あたりにシンカーの割合を減らしたころからよく被弾するようになった。

今回は今季被弾した33発を中心に分析し、なぜコールがこんなにも一発を浴びるのか分析する。


投球スタイル

コールは奪三振力が高いだけではなく、フォアボールも少ないコントロールの良い投手である。2021年には無四球で連続59奪三振も記録している。
投球の中心は平均97.8mphの4シームとスライダー、ナックルカーブ。
右バッターにはアウトロー、インハイの4シーム、アウトローのボールゾーンへスライダーを投げて三振を取りに行く。

対右バッターの三振を取ったゾーンと球種


一方、左バッターにはインコースへのスライダーだけでなく、アウトローへのナックルカーブ、4シームはアウトハイ中心ではあるものの、ゾーンの中でアバウトに投げ込んで三振を取っている。

対左バッターの三振を取ったゾーンと球種


この通り、コールは各球種を確実に使い分け、ストライクゾーンの枠周辺で勝負しており、100mphを連発するパワーがあるだけではなく、非常にコントロールのいいクレバーなピッチャーなのである。


被弾の傾向

今季、コールは前半戦と後半戦、対右と対左、ホームとアウェイ、球種どれにも偏らず、まんべんなく定期的にホームランを打たれてた(笑)。
特にスタミナに問題や苦手があるというものではないようである。

前半戦:16HR
後半戦:17HR

対右:17HR
対左:16HR

ホーム:14HR
アウェイ:19HR

4シーム:16HR
スライダー:7HR
ナックルカーブ:2HR
カッター:4HR
チェンジアップ:4HR
※4シームの被弾が多いが、そもそも投球割合が多いため(51.9%)であり、まんべんなく打たれている。


ホームランを打たれたコースはやはり、左右ともに真ん中中心の4シーム、変化球が多い。失投である。

対右バッターで被弾したコースと球種
対左バッターで被弾したコースと球種


また、コールは特に、2、3球目に打たれることが多い。0-2というカウントではその奪三振力からほとんど打たれることはなく(被打率:.148、被本塁打:1)、勝負がついたも同然である一方、0-1、1-0、1-1といった浅いカウントで、追い込むためにストライクを取るタイミングでどうも甘くなるようなのである。
また、バッターのほうもそれを狙っているのか強振し、コールが打たれる際の打球速度、ハードヒット率、バレル率はどれも比較的高い。

加えて、同点やビハインドでそれぞれ14本、12本のホームランを打たれている。
確かに、「ここをコールに踏ん張ってもらい、次のヤンキースの攻撃につなげたい!」という場面で、まさしく痛恨の一発を食らうシーンが多かった気がする・・・

それを象徴するのが、リーグチャンピオンシップでアストロズ、マコーミックに打たれた一発である。

両チーム無得点の2回表、1-1からの3球目4シームがやや真ん中に甘く入り、ライトに運ばれた。今季の被弾の傾向をすべて盛り込んだ一発はヤンキースにとってもとどめの一発となってしまった・・・

長いシーズン、安定して長いイニングを投げるにはストライクゾーンでの勝負が必要であり、メリハリも必要である。
ただ、カウントを整えることを急ぐあまり、やみくもに投げてはいけない・・・


2023年 要注意の天敵

さて、失投を確実に運ばれているコールではあるが、失投でないにも関わらずホームランを打つ怪物が同アメリカン・リーグ東地区にいる。

一人目はレッドソックスのデバース
デバースには34打席で打率.233ではあるものの、通算6HR、OPSは1.157。
特に7/7の試合では、同日にボールゾーンのスライダー、チェンジアップを見事に救い上げられ、2HRを献上した。


二人目はブルージェイズのゲレーロJr.。
この試合2本目となる一発は、インコースの厳しいコースをうまく回転してレフトスタンドに打たれている。



さて、以上が今季よく被弾したコールの分析である。
おそらく、コールレベルの投手となるとバッターにとってはベストピッチを長打にすることは難しく、特に浅いカウントでカウントを取りに来るボールに絞り、パワーに負けない強いスイングを心がけて打席に立っているのではないか。
ただ、ヤンキースのエースたるもの、長いイニングを投げるために球数を抑えることは絶対条件である。コールのスキルを考えると2ストライクを追い込んだらもう勝負はついたようなものなので、如何にリスクを抑えてカウントを整えるか、来季は注目である。

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