プロ野球はなぜ犠牲バントが多いのか。
読売ジャイアンツは、2021年以降3年連続で今季も優勝を逃し、クライマックスシリーズ進出も絶望的な状況となっています。
原因のひとつはバッティング面での勝負弱さ。
2位のヤクルトに41本の差をつけてセ・リーグでダントツのチームホームラン数(163本 9/28時点)を記録しながら、得点数は阪神、ヤクルトに次いでリーグ3位(517得点)。
投手陣もリリーフを中心に崩壊気味であったため、リーグ3位程度の得点数では物足りず、直近のDeNAとのカードでも二試合連続で完封負けをするなど、年間通して打線の勝負弱さと策のなさが目立ったシーズンでした。
そんなジャイアンツの攻撃の特徴は、判を押したような犠牲バントによるランナーの進塁。
先頭バッターが出塁すれば、特に終盤ではバッターによらずに確実にバント。
さすがに今季の岡本にバントのサインは出ていないようですが、チームでOPSが3位の大城が21個の犠牲バントをしています。ほか、チャンスで坂本や秋広もバントをするケースもありました。
また、1死1塁でも犠牲バントをするというのがジャイアンツの特徴でもあります。
(ぼくはこんなに笑顔でバントについて語ることはできません・・・)
ジャイアンツに限らず、プロ野球では攻撃の選択肢の中で、犠牲バントを選ぶケースが多いです。
例えば、ジャイアンツの今季の犠打数は9/28時点で92。
12球団のうち5球団(楽天、ロッテ、阪神、DeNA、ヤクルト)がシーズンで100個以上の犠打を記録し、最も少ないオリックスでも80個。
一方、MLBではダイヤモンドバックスの35個が最多であり、今季派手に負けているアスレチックスでさえ2番目に多い27個。実に8割のチームが年間で20個以下の犠牲バントしか記録していません。
セイバーメトリシャンだけでなく、少しでもデータにアンテナを張っている関係者であれば犠牲バントが得点のチャンスをいかにつぶしているか、というのはもはや明確な球界の真理。
それなのになぜ、プロ野球では令和になっても犠牲バントがここまで重宝されるのでしょうか。
慢性的な長打力不足
プロ野球の各チームは、全体的に長打力不足が否めません。
今季でいうとジャイアンツの岡本が41HRを放っているものの続くのは31本の村上であり、パ・リーグでは30HR以上を記録している選手はいません。20本塁打を記録しているのは12球団で13人であり、各チーム平均して打線に一人のみというイメージ。
ホームラン数が物語るように全体的に長打率が低い傾向にあり、長打率が.400を越えているいチームは巨人(.405)のみ。大半のチームは.350~.370の間に収まっています。
長打率はなじみのない指標なのでこの数値がイメージしにくいのですが、MLBで長打率.405は全体で上から19番目に該当し、最下位のアスレチックスでさえも.371を記録しています。
プロ野球は一部(全体で数名)のバッターを除いて全体的にパワーのない選手が多くを占めており、長打によってランナーを返すというケースが極端に少ないのです。
ランナー・辻、センター・クロマティでない限り基本的にランナー1塁の場面では、2ベース以上の長打でなければランナーを返すことはできません。
ただし、プロ野球ではその2ベース以上を期待することができないのです。
ランナー1塁から得点するには、単打を複数本続けなくてはいけない。
ただし、単打二本以上は期待しにくい。
そのため、アウトを献上してでもランナーを得点圏に進め、後続バッターの気合と感と度胸に心中する。
犠牲バントが得点のチャンスを下げていることを認識しつつも、そうせざるを得ない理由があるのです。
進塁のオプションの少なさ
ランナーを進塁する方法は犠牲バント、犠牲フライ、ヒット、ヒットエンドラン、内野ゴロ、四死球など、複数のオプションがありますが、特に今回取り上げるのは盗塁について。
日本の野球の強みといえば機動力をいかしたスモールベースボール。ただし、その印象とは異なり、実は盗塁数はかなり少ないのが現状です。
今季、楽天が99個と12球団で最も多いものの、他はシーズンを通して60~70個のチームが大半を占め、DeNAや中日はそれぞれ31個、35個しか記録していません。
特にDeNAでは三浦監督就任時に盗塁を積極的にしかける機動力野球を掲げるも、指揮をとった2021年からの盗塁数は31、49、31。盗塁を軸にした機動力野球というのは、新任監督がとっかかかりやすそうなテーマの割にはプロ野球では難易度が高いのです。
一方で投手のクイックの精度や、ルールの変更などがありMLBの数字と比較は適切ではないかもしれませんが、今季はブレーブスのアクーニャJr.は一人で70個の盗塁を記録しています。
プロ野球においてベンチがリスクをとることに躊躇しているのか、盗塁でチャンスを広げるというオプションの優先度は低いように見えます。
そのため、犠牲は伴うが盗塁に比べて確実にランナーを進められる犠牲バントが好まれるのかもしれません。
軟式野球の強迫観念
犠牲バントを含む小技好きの原点はトーナメント方式、とりわけ高校野球の常にDead or Aliveのシステム、というイメージが強いかもしれません。ただし、個人的には軟式野球の戦術こそ、犠牲バントこが攻撃のベストプラクティスという洗脳に至っていると考えています。
硬式ボールに比べ、軟式ボールは飛びません。
そのため、軟式野球ではいかに内野の中で展開する野球を極めるかが勝負です。
草野球の例ですが、強豪チームではランナー3塁のケースでバウンドの高い打球を打つ練習もするようです。
打ち上げたら、そこで試合終了だよ。
強振、ダメ、絶対。
強振しません、勝つまでは。
ニッポンジンはそのような野球から始めたため、犠牲バントはまさしく野球の一丁目一番地。バントドリブンなチームこそ、全国を制す(と教えられた)のです。
源頼朝的采配
これは、ジャイアンツに限ったユニークな理由かもしれません。
例えば、長嶋監督が清原にバントを命じたことがありました。
そのDNAを引き継いでか、由伸監督、原監督もよく主軸にバントを命じます。
これは戦術的な意味合いだけでなく、チームへの献身、忠誠を試しているような気もしています。
お前さんたち、永久に不滅な華の都大東京巨人軍で強い侍としてプレーするというのは、自己犠牲のもと成り立っているのだよ。
まさしく、謀反の疑いがあれば容赦なく成敗し、側近の忠誠心を試すような源頼朝的な采配。
以上、プロ野球で犠牲バントが多く起用される理由について考えました。
犠牲バントが得点のチャンスをつぶすのは自明!だよってバントをさせるとは無能!
なんて思考停止にならず、ベンチのバントを選択した合理的な理由があるはずなのです。
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