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第6回笹井宏之賞最終選考候補作 短歌連作50首「flow」

「第六回笹井宏之賞 最終選考候補作」に残りました。
『ねむらない樹 vol.11』に 10首掲載されています。

flow

傘をさす それでもぶつかる雨粒のひとつひとつを睨みつけてた

駅前のベンチんとこで待ち合わせ 成功した人から席を立つ

いま足を伸ばせば蹴れる鳩 僕はまだ犯罪をしたことがない

ガタガタのチェーンで走る少年の無事を祈って買うコカコーラ

手を振った っていうか挙げたら君も手を挙げる ハイタッチとかはせずに

君が火をつけると風は白くなり海に向かっていくのが見える

タクシーの運転手からこの道が桜並木と教えてもらう

コンタクトしてから伊達眼鏡もかけているのに忍びこんでくる砂 

悩みとか言いたくなくて右を向く フルバで誰が好きかを話す

クリスタルガイザー開けるとき濡れて乾いたころに君は帰った

ほんとうの私とかないけど嘘を注いだ数だけできる輪郭

二周目の人生を君が行くんなら僕に会わない経路だろうな

シルバニアファミリーを兄は断られた 恐竜図鑑を私はもらった

銭湯で流した汗と銭湯の帰りにかいた新しい汗

僕の寝言で育てた空気清浄機あなたにあげられるものがない

明晰夢のなかで飛ばない 風の強さだけを基準に買うドライヤー

「恋愛のない人生って楽しい?」とギャルに聞かれて「楽しい」と言う

チューハイを二杯でやめて絶対に踏み外してはいけない足場

僕の影は僕の眼鏡をかけている雨は明日も続くらしくて

噛まずとも食べれるおかゆ 僕の歯は世界に噛みつくために残すよ

新作を旧作にする能力が日々にはあってそれを見ていた

靴底に入った桜の花びらをそのままにして春を歩いた

花曜日 光の位置を知るために影が伸びてる方向を見る

転職の口コミサイトでボロクソに書き込まれてる弊社に向かう

部長からもらったアイスを食堂の隅で食べてた 窓よごれてる

テンプレのビジネス文書にそれっぽく自分の言葉を混ぜて送信

「アドバイスなんか無視すりゃいいよ」っていうアドバイス 振り切っていく

シロップがないと飲めないコーヒーにシロップを入れて飲み干す作業

定時まであと15分 15分、目を開けてれば給料が出る

紫陽花の色が土壌の性質で決まるんならもうがんばれないな

サイファーのあと梅田まで路地を行く言いそこなった韻と一緒に

スカートを一度も買ったことないな買ったことないまま終わりたい

適当な由来の名前で生きていく イグアノドンにツノはなかった

「こんばんは!元気ですか?」の返信に元気に関するコメントがない

話したい人の寝息は聞こえない夜十時から開くラーメン屋

種を蒔くことを忘れた鉢植えを毎日濡らして乾かしていた

水を描くときには水色のクレヨン じゃなきゃみんながうるさいんだよ

お前らはハヤシライスの話題にもカレーライスの絵文字を使う

花束をうまく喜べない僕にあなたが送ってくれるTシャツ

ダメな自分を隠す嘘ならいくらでもつくよ友達と死ぬまで友達でいたくて

空港の手荷物検査を堂々とインプラントの犬歯で通る

「似合いそう」ってあなたが言ったから買ったローファーであなたと進む道

青汁と白湯を毎日飲んでいるあなたは長命種だ 大丈夫

「すごい」ってあなたは僕に言ういつかあなたの思う僕になりたい

前の前の夏から部屋にある花火燃やせば煙まみれの光

話したい/話せんかった/話したくないこと 置いてドラマの話

まだ水を吸わないタオル 口癖があなたにうつらなくて嬉しい

All rights reserved. あなたが生まれた梅雨の日が晴れてたことも思い出してよ

遠回りして帰ろうかひとりでもふたりマイナスひとりの体で

朝は私を逃さない 月曜の光に濡れた市バスに乗った

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