ユーミンの100分の1
今朝は目覚まし時計よりも随分早くに目が覚めてしまった。二度寝は好きじゃない。頭を起こして、枕元に置いてあるイヤホンをとる。
もう一度頭を枕に寄せて、荒井由美さんを聴く。寝ぼけ越しに聴く彼女の曲は、いつもより深く心に溶け込んでく気がした。私は半分夢を見てるのかもしれない。まるでユーミンという海の中を、ゆらゆらと漂ってるような気持ちになる。
なぜそんな風になるのか、私もよくわからない。でも起き抜けに聴く音楽は、いつもより入り込むことができると最近気づいた。どんな音楽でもそうなるわけじゃないけど、ユーミンは特に相性がいい。
普段は頑なな私の心も、底の方から掬い上げられて揺らぎがでた。その揺らぎの波の中に、ひとつの発想が生まれる。
「私も彼女のように、全身全霊でつくってみたい。」
私にしては珍しくポジティブなアイデアやった。私はいつも虚無ちゃん(※私は虚無のことをそう呼んでる)に襲われてて、何事もやる気がない。「私に影響力はないし」と諦めてしまっているんやと思う。
でも、ユーミンはこんなにがんばってるんや。がんばった結果、私にこんな感情を巻き起こしてるんや。すごい、もう魔法レベルやん。そんなことを起き抜けのテンションで思った。
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今年の3月のこと。私はかなり焦ってた。かもノす企画で初めての個展を控えており、その準備の瀬戸際やった。私ひとりでは絶対にチャレンジしんかっただろう展示スタイルをとったこともあり、制作が間に合うのかも、作品がうまくいくのかも、何もかも未知数やった。(ちなみにかもノす代表の素也さんは「こんな展示になるだろう」と予想できていたから不安はなかったらしい。)
もはや泣くしかなかった。ひとしきり泣いてから、筆をとった。そしてまた泣いた。
そうやって情緒を乱しながら、制作に挑んだ。正直、それがよかったんやと思う。今回に至っては、感情を思い切り出したから腐らず制作できた。出さずにいたら、不安からもっとネガティブな作品になっていたやろう。
泣いてる自分は滑稽やったが、同時に感情エネルギーをうまく使えた珍しい例やとも思った。いつもは大概、怒りとか不安とか喜びを私は持て余してる。だから今回の制作は、間違いなく私の全力やった。
逆に言えば、感情を抑え込むと、全身全霊を込めて何かを作ることもできないのかもしれない。
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そんなことをこの一週間考えてたら、バイト先の先輩からも「のんちゃんはもっと感情を出そう!」と言われてしまった。自分の中でタイムリーすぎて、泣きそうになった。
先輩の理屈としては、「のんちゃんが自分を抑えていると、本来共感されるはずのお客さまにスルーされてしまう。それが100人に1人の確率だとしても、お店としてそれは勿体無い。」ということやった。
私が働いてる先は大企業なので、100分の1の損失に目を向けることを意外に感じた。でもよく考えてみたら、大企業だからこそ100分の1が集まればすごい人数になってしまうのか…そこまで俯瞰して見れてなかったな。
制作においても同じことかもしれない。作品を作るなら、マスに共感されるものじゃないといけないとどこかで思ってた。でもどれだけ有名な人も、はじめは100人のうち1人に届けることから始まって、その100分の1がたくさん集まっただけなのかもな…と想像した。
ユーミンに心を動かされた私も、100人に1人の存在なのかもしれない。
生きる糧にします