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京風と言う呪縛から脱しよう

先日実家のある群馬に出張に行った。何かイベントでもあったのか街中のホテルが壊滅的に空いておらず、結局は電車とバスを乗り継いで伊香保に泊まってみた。伊香保のとある旅館が空いていて、もう15年ほど前に家族で泊まった事があるのだが、その時の印象が割と良い思い出で、そんな宿が一泊二食で2万少々、まぁ良いかと泊まってみる事にした。

チェックインした後の客室係がいきなり最低で、目も合わせずにこちらが聞き取れない早口で話す。忙しくて自分の分担も多く、一刻も早く終わらせたいんだろうけどそれがこちらに伝わってきて不快だった。帰ろうかと思ったけど気を取り直して風呂に行き、帰りのエレベータの中で他のお客さんをまた違う客室係が案内していた。

「雨の中ようこそお越しくださいました。屋上に露天風呂がございますが、傘を用意しておりますので頭にちょこんとお乗せくださいませね」なんてにこやかに案内していて、接客ってこうだよなぁと改めて思った。ぼくについたおばちゃんはそんなこと一言も言わなかったし。というかこの宿の売りが高級なものは何もないけど心暖まる接客を、でそれをHP初めあらゆるところに明記している。最初のおばちゃん以外の従業員は皆暖かい接客をしてくれたのでありがたかった。しかし夕食の時に何か気になる事がありますか?と聞かれたので素直にその旨を告げた。

まぁ、ああいうのってこちらが恐縮するくらい申し訳ありません、となる。なので宿を出た時に東京に帰りながらメールをまとめて宿に送った。

まずあんなに謝ってもらって逆にごめん。おばちゃんの件は残念だけど、おたくくらいの価格帯の宿に高級感なんか求めてないし、設備が古いとかボロいとかの書き込みもあるけどそんな事は気にしないで良いと思います。ただ、おもてなしはおたくの金看板であろうしそこは違えない方が良いですよ、と。そしてせっかくなので食事に関しても記しておいた。ちょっとね、食事に違和感を覚えたんだ。

その言い方が悪かったんだろうけど、出来の悪い京風料理を田舎で食いたくない、と記してしまった。女将さんからご丁寧な返信をいただいたが、どうもその部分は琴線に触れたらしく、出来が悪くて悪かったな、うちの料理は喜んでくれるお客さんばっかりなんだよ、お前にそんなこと言われたくねーわというニュアンスが読み取れた。

伝えたかった趣旨はそこには無く、そもそも出来の悪いなんて言葉を使ったぼくが悪いのでお詫びの返信をしたが、つまりはこういう事だ。

旅館に泊まるとなぜかどこもかしこも猫も杓子も「京風」な料理が出る。日本全国どこに泊まってもそうなる。これは極論したら旅館の飯なんか日本のどこで食っても同じだ、って事だ。いつ誰のせいかわかんないけど、京風の懐石こそが至高みたいな流れがあって、それがずーっと続いているのが旅館の食事の現状だ。もちろん一泊5万とか6万以上の旅館ならそれなりに食事に原価をかけられるのでまぁそれなりにちゃんとした感じの食事を取ることもできる。でも一泊1、2万程度の安旅館にはそれは無理だ。

なのでどうしても懐石風の形を取りながら原価を下げた非常につまらない料理が出ることになる。簡単に言えばマグロの刺身、海老天、茶碗蒸し、などだ。今回は茶碗蒸しは出なかったけど鱧のゆびき、鮎の焼き物などがでた。

まず、何が悲しくて群馬の山奥でマグロだ鱧だを食わないとならんのか。そもそも海無いし。しかもそういうザ・旅館の共通食材ってどこで食べても同じ味しません?それは簡単に言えば加工品だから。1、2万円の安旅館で仕込みからそんな料理作れるコストってないから加工品使うんです。マグロの刺身なんかは赤物って言って見た目が引き立つので重宝されるし、まぁ嫌いな人はいない。で懐石だと最後に油物が出て食事、って流れなので天ぷらもほぼほぼついてくる。でね、当然だけど美味くないんだよね。今回もマグロは消しゴムみたいだったし、わかるでしょ?安い居酒屋で出るような不自然に筋がない真っ赤な塊の。鱧は骨切りが中途半端で口にめっちゃ骨が残る。鮎は育ちすぎていて、骨が噛みきれない。なので残してしまった。

天ぷらも良いネタ使って目の前で揚げたて食えるならまぁ悪くもないけど、旅館だとどうしても食べるまでにタイムラグが生じる。油は酸化して味が落ちるし、安い旅館は素材に金かけられんのだから不味くなる一方。

でね、なんで京風にするの?いい加減やめませんか?ってのが言いたいことなんです。ジジババはそういう飯で喜ぶのかもしれんけどさ、あいつらもうすぐみんないなくなるよ。これからしばらく日本の経済は今まで経験したことのないくらい悪くなるよ。その時に、あえて言うが安旅館さんよ、あんたらどうやって金を稼ぐのさ?って事なんですよ言いたいのは。

これからの旅館業って超安い=一泊1万もしくは以下、か高級=一泊5万以上しか生き残れなくならんですかね。そしたらそんな出来の悪い京風をやめてね、すげぇ田舎くさいけど絶対ここに来ないと食べらんないよ、って料理を出すのもありなんじゃないかと思ったわけですよぼくは。だって施設はかなりのコストかかるけどメシはすぐに変えられるでしょ。

女将さんもうちは地産地消認定されてるんだとか反論してたけど、そんなものが金を持ってきてくれたことあるんですかね?ないでしょ?うおーすげー地産地消認定の宿だ!ここにしようって決めた事がある人、いらっしゃいますか?

もっと田舎くさくていいんですよ、田舎なのだから。今後コロナが明けたらますますインバウンドのお客さんは神様になる。彼らが求めてるのって本当に京風?マグロ?海老天?和民で食えるよねそんなもん。

もしくは今のステレオタイプなお客さんは先付から止椀までの流れを好んでいるのかもしれない。でも繰り返すけどジジババは死ぬぜ?貧乏人はますます旅行なんかできなくなるぜ?なのであんたらが出来の悪い京風を維持しようとしているモチベーションの源泉が、今のお客さまに評判が良いから、だと実は危険なんじゃないかと思っているんですよ。

例えば群馬にはおっきりこみって言ううどん料理がある。ほうとうを更に田舎臭くしたようなものだ。しかしこれが美味い。ソースカツの文化もある。ジャンクだけどこれも美味い。自分達はなんとも思ってない様なものが足元に落ちていて、それがなんとも言えないオリジナリティを有している、って素敵じゃないかな。

京風が食べたいなら京都に行けば良いし東京に色々ある。もちろん競争は激しいし単価も高いからその土俵じゃ勝ち目はないよ。

土の匂いがダイレクトに香ってくるようなそんな田舎くさいイノベーションが地方からどんどん出現することを祈っています。




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