「君は彼方」というクソ映画の話をする。

個人的に、今年はクソ映画があんまり話題にならなかった一年な気がします。正直、コロナで色々大変なこの時期にクソ映画を率先して映画館に見に行くのは気が狂ってると思うので、そういう人があんまりいなかったのだなあと寂しさと共にホッとした気分になってます。

 さて、そんな2020年のラストに飛び込んできたのがこの「君は彼方」です。ネットの評判的にこれはやべーなと思って思わず見てきたのですが、まあ中々どうして凄まじい映画です。映画の公開自体が少ないこのご時世に、1〜2週間で上映終了してる映画館が多発してると言えばなんとなくその凄さがわかる人も多いんじゃないかと思います。

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 さて、この「君は彼方」ですけども、クソ映画では珍しいことにストーリーはそんなにクソではありません。「死後の世界に迷い込んでしまったヒロインが現世に戻るために奮闘し、相手役の少年はヒロインの魂を呼び戻そうとする」という、ストーリーの主軸自体はありふれているけど至極真っ当なものです。ここに昨今の流行り物の要素を色々取り入れて膨らませた結果、ごちゃごちゃして全ての要素が薄くなった作品という感じです。
 この感想から分かる通り褒められたモノではないのですが、伏線はそこそこしっかり貼られていますし、ちゃんと展開も二転三転します。そして、設定の破綻や矛盾も目立つ範囲では存在しません。当たり前っちゃ当たり前なことなのですが、クソ映画では珍しいことです。主人公が何をしたいか、何をやっているのか全くわからないというクソ映画にありがちなストーリーでは無いです。100点満点で言うと45点くらいで、ストーリーだけで言えば「ギリギリ及第点は出せるかな?」ぐらいの作品です。

 じゃあなんでこの映画がクソ映画であるか、というとそれ以外の要素が悉く0〜20点くらいをウロウロしてるからです。こういうクソ映画は中々珍しい気がします。

 まずは演技です。主役の宮益澪を演じる松本穂香、準主役の鬼司如新を演じる瀬戸利樹の演技がまあ酷いです。松本穂香は声が綺麗じゃない下手な声優くらいのレベルなので演技下手だな〜と思いながらもまあ我慢すればギリギリで聞けなくもない範囲です。正直キツイけど。ただ、それにも増して瀬戸利樹の演技が本当にひどいです。「通話でイケボって言われるタイプの素人男によって繰り広げられる棒読み地獄」という感じで、どうしてこれでオッケーしたんだよ……ってレベルのとんでもない棒演技がガンガン耳に飛び込んできます。特にラストシーン間際の1人での掛け合いがとんでもない地獄です。もう聞いているだけでしんどい。空青の吉沢亮の演技とかで耳を洗い流したくなります。
 声優陣はともかく、他のゲスト枠も土屋アンナ以外(といっても土屋アンナも主演2人の倍はマシ)はしっかり声での演技ができているので、とにかく主演2人の演技力のなさが際立ちます。特に序盤でメイン2人を含めた幼馴染3人で会話するシーンは、他2人のあまりの下手くそっぷりに小倉唯演じるもう1人の幼馴染が浮きます。恋愛ドラマでジャニーズとAKB系に挟まれた女優とかがなる感じのアレが、アニメ映画で起きてます。昨今のアニメ映画などでの俳優や芸人の声優起用は、結構な頻度で良い演技をしている場合が多く、定着しつつあった悪いイメージも剥がれつつあったのですが、この映画は「芸能人声優はヘタクソ」という一昔前のそれを嫌でも思い出させてくる作品に仕上がってます。

 そしてそれに負けないぐらいの地獄を生み出しているのが演出と作画です。どちらもその辺の深夜アニメの方が遥かにクオリティが高いです。話題の「鬼滅の刃」とか、今やってる「呪術廻戦」みたいな予算とスタジオの暴力によるすげー作画のいいアニメ、とかではなくて、そこそこの売れ行きのなろう系小説とかをアニメ化したそれくらいのクオリティです。それに完全敗北してます。
 作画崩壊こそあんまりしていませんが全体的に手抜き&雑作画に満ち溢れており、演出も全般的に10年前くらいの低予算アニメみたいなのを使ってきます。
 キービジュアルですら微妙な雰囲気のキャラデザはやっぱり動いても微妙です。唯一マスコットキャラ的な存在のギーモンだけはそこそこ可愛かったのが救いですかね。大谷育江の声にだいぶ助けられてた気はしますけども。
 

 そんな手抜き作画や棒演技のパワーが存分に発揮されたやばいシーンに溢れた本作ですが、個人的に特にやばいなーと思ったシーンが3つあります。序盤にある止め絵にアフレコしただけのデートシーンと、中盤の同じく止め絵オンリーで構成される回想シーン、そして何より終盤のヒロインが泣きじゃくるシーンです。止め絵祭りは「これでいいのか、このアニメ」と思いながらも無害だったのですが、終盤のヒロインが泣きじゃくるシーンはやばい顔の海未ちゃん(画像参照)みたいな顔をしたヒロインの絵が流れる中、汚い泣き声が30秒くらい異様な音量で耳に突き刺さってくるので少し精神にダメージを受けました。このシーンだけが流れ続ける映画館に1時間閉じ込められるたら、それはもう立派な拷問として成立してる気がします。

やばい顔

 上記で指摘した点以外にもエンドロールで突然幼馴染3人に紛れ込んでくる男性キャラ、意味があったか分からないギーモンの大谷育江&山寺宏一の予算の無駄感漂うダブルキャスト、どうしようもないほどキモカッコ悪いモガリの怪人体のデザイン、漢字表記すると鬼滅並みに読みにくいキャラの名前、全体から漂う凄まじい宗教(幸福の科学)映画っぽさなどなど……ツッコミどころはいくらでも存在するのですが、これらに一々ツッコんでいるといつまでも記事が終わらないと思うのでこのくらいにしておきます。あとは自分の目で楽しんでください。見に行く物好きもいないとは思いますけど

 池袋完全タイアップというだけあって池袋の名所の再現度は中々高いです。あまり池袋に行かない僕みたいな人間でも場所がわかるシーンが多いのは、数少ないこの映画の褒めるところですね。話が8割池袋で展開する割にラストシーンが池袋全く関係ない場所なのは正直どうかと思いますけど。 
 TOHOシネマズ池袋ではまだ公開中(12/15日現在)なので、この映画を見てそのまま聖地巡礼という名の池袋観光する、というのは、この映画のまあマシな楽しみ方な気がします。(映画を見るプロセスが要らないというのは禁句)

 ちなみに、最初に述べたとおり、ストーリーから来る苦痛は少ない割に、全編から漂うクソ臭は凄まじいなので、劇場でクソ映画デビューをするには多分うってつけの映画だと思います。監督・原作を担当した人が2億円借金して作った映画らしいので、多分抱えるであろう莫大な負債を減らす助けになるつもりで、年の瀬にクソ映画デビューをするのも一興だと思います。


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