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ボルネオ島の「森の掟」 05/06

そのヨロイハブのいる幼樹を避けて進みながら、彼は話を続けた。「もし、おまえが一人だけで森にいて、毒蛇に咬まれたら、何を一番最初にしなければならないと思う?」私は、少し考えて、「咬まれた所を吸って毒をとる」と答えた。彼は、「そうじゃなく、もっと先にやってなければいけない事だよ」と言った。私は、矢継ぎ早に「何かで縛る?」と。彼は、厭きれた顔つきで、私を見ながら話し出した。「一番最初にやる事、それは、おまえがまだ動ける時にやらなければいけない事という意味。何かって、すぐ、その咬んだ毒蛇を殺す事。そうすれば、おまえが気を失っても、毒蛇の死骸を自分の傍に置いてれば、見つけた人がすぐにどの薬草を使わなければならないか分かるだろう。そんなに時間がたってなければ、まだ息があれば、何とかなるんだ。でも、もし、毒蛇を殺さず逃がしてしまったら、例え、咬まれた所を吸取っても、何かで縛っても、誰か人がいる場所に辿り着かなかったり、気を失ったお前を誰かが発見したとしても、どの毒蛇の薬草を使わなければいけないか解らないんだ。それだと、手遅れだ。それに、歩けば歩くほど、毒がまわるからね。動き回るのは駄目だよ。パニックになるのも同じ。



あの痩せた青年は、5年前、森に一人でいる時、さっきのヨロイハブに咬まれたんだ。結構、森の奥まで入っていたんだ。歩いて帰るのは無理だと悟って、彼も何かをする事を諦めて、とにかく、その蛇を殺すだけはしたんだ。そして、その毒蛇の死骸を体のすぐ傍に置いて、あとは、一切動かず、もっていた水を飲み、運良く、川の傍だったので、その川の水を出来るだけ飲んで、耐えたんだ。毒蛇などに咬まれた時、水を出来るだけたくさん飲めば、毒が薄まるんだって。あの長老は、若い頃一回だけ毒蛇に咬まれた事があるんだけど、水をたくさん飲んだら、何ともないと言っていたよ。長老の足首には、今もその傷跡が見れるけど・・・。

それで、あの青年も1日目は意識があったみたいだけど、少しづつ朦朧としだし、真夜中にウトウトとしたら、その後は覚えていないみたいだった。村人の人は、彼がすぐ帰ってくると言っていたのに、その日に帰って来ないので、心配して、次の日の朝、皆で探しに行ったら、気を失って、口から少し泡が出てたそうだ。その時も長老が、ちゃんと数種類の毒蛇の解毒用の薬草を持っていて、その毒蛇用の薬草を飲ませて、村へ運んだのだ。少し心配だったので、街の病院にも連れて行ったんだ。今は大丈夫だけど、少し呂律がおかしいんだ。大体、毒蛇に咬まれると、細かい神経が機能しなくなるらしい。発音がおかしくなる。彼の話し方は少し変だろう」。私は、「どうやって、殺すんだ」と尋ねたら、彼が失笑して、「お前のその腰にあるパラン(蛮刀)は、踊りの為か?何の為にある?」と答えた。その私の腰元に不恰好にぶら下っているパランの事をうっかり忘れていた。


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