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~福井を舞台に。福井の若者たちが波及させる「創造的希望」~第2章

2.福井県の幸福について


「客観的に現実にいかなる事態なのか」ではなく、「私たちにとって、いかなる事態なのか、私たちが事態をどう把握したのか」が、私たちを幸福にしたり不幸にしたりするのである。(ショーペンハウアー,2018[1950]:p.25)
 
 短期的なスパンでコロナという事態を捉えた時、客観的な幸福度評価は、主観的幸福度を維持することに貢献するかもしれない。しかしながら、今なおコロナは収束の兆しを見せてはくれない。コロナ禍との長期的な向き合い方を模索せざるを得なくなった時、客観的なものさしではなく、今置かれている事態をどう捉え、その中で何を生きがいとするのかという主観的な評価と主体的な行動が、私たちの幸福度実感に大きな影響を及ぼすだろう。

(1)  都道府県別幸福度調査の結果と分析

 日本総合研究所が2012年から2年に1度行う幸福度調査(以降、客観的幸福度調査)では、人々の幸福感を評価する尺度として健康、文化、仕事、生活、教育の5分野を設定し、都道府県別の客観的幸福度をランキング化している。調査の結果、福井県は2014年版から5回連続で1位に輝いており、特に教育、仕事分野において全国平均を大きく上回る堂々の1位を獲得している。一方で福井県民の主観的幸福度はどうだろうか。株式会社ブランド総合研究所の幸福度調査(以降、主観的幸福度調査)では、「あなたは幸せですか」という設問に対し、各都道府県の住民に5段階で回答してもらった結果を基に主観的幸福度をランキング化している。福井県のランキングの推移は以下の通りである。2019年3位(70.6)(田中,2020)、2020年4位(70.1)(田中,2021)、2021年18位(70.0)(株式会社ブランド総合研究所,2021)、2022年22位(70.1)(株式会社ブランド総合研究所,2022)。

①  客観的幸福度の高さが主観的幸福度を支える

 まず、コロナ前の2019年と流行直後の2020年の主観的幸福度を比較する。福井県は2019年から2020年にかけてランキングを一つ落としたものの、依然として4位にランクインしている。さらに、福井県と同じく北陸地方に位置する石川県、富山県においては、2020年、両県ともに上位にランクインしただけでなく(石川県5位、富山県8位)(田中,2021)、2019年から2020年にかけて主観的幸福度得点をも伸ばしている。三県に共通しているのは、2020年、主観的幸福度だけでなく、客観的幸福度ランキングにおいても上位にランクインし、分野別に見ると仕事、教育分野で高い評価を受けていることである。特に福井県の教育と仕事分野の客観的幸福度の高さは、青少年期の入口(教育)から出口(雇用)までを家庭、地域、学校、地元企業が連携し合って支援する一貫した体制、「現行の福井モデル」(寺島,2020:p.16)に支えられていると言われている。

②  主体的な行動が主観的幸福度を高める

 次に、コロナ流行から1年が経過した2021年の主観的幸福度に注目する。福井県はコロナ前後の2019年から2020年かけて主観的幸福度ランキングを維持していたが、2021年以降、ランキングのみを大幅に落とす結果となった。それは、他県の主観的幸福度得点が上昇したからであるが、2021年、全国的に主観的幸福度得点が上昇した要因はどこにあるのだろうか。内閣府の「生活満足度調査」(2021)は、2020年2月から2021年3月(コロナ前後の比較)にかけて新たに趣味・生きがいができた人の満足度は大きく上昇した一方で、コロナの影響でそれらがなくなった人の満足度は大きく低下したことを明らかにした。以上の全国的な傾向を踏まえ、総務省統計局が発表する2016年と2021年の「社会生活基本調査」の結果を用いて全国平均と福井県の以下5指標における行動者率を比較する。
 
表 全国平均と福井県の生活行動者率比較

数字は% 出典:総務省統計局(2017,2022)「社会生活基本調査」(作成:渡邉)


 まず、コロナ前後における行動者率の変化に注目すると、2016年から2021年にかけて上昇した項目は、全国平均、福井県共に①「学習・自己啓発・訓練」のみである。この結果から、内閣府の「生活満足度調査」において新たにできた「趣味・生きがい」の内容も、①のような家庭内での活動であったことが予想できる。また、①に関して全国平均では2.7%上昇した一方で、福井県は1.5%に留まった。次に全国平均と福井県の行動者率を比較する。コロナ前の2016年は、④「ボランティア活動」と⑤「旅行・行楽」、コロナ禍の2021年は、④「ボランティア活動」のみにおいて、福井県の行動者率が全国平均を上回る結果である。しかしながら④を年齢階級別に見ると、2021年、福井県では60歳以上70歳未満で35.0%と最も高い一方で、15歳以上30歳未満では6.9%と最も低くなっており、この世代の全国平均11.8%を下回っている(総務省統計局,2022)。この傾向は、コロナ以前の2016年も同様であった。つまり、福井県内でボランティア活動に積極的なのは、今後の福井の未来を担う若者ではないのである。一方で、福井県の⑤「旅行・行楽」の行動者率は、コロナ以前の1996年から2016年にかけて、全国平均を上回り続けていたが、福井県の主観的幸福度ランキングが相対的に低下した2021年、福井県の行動者率は全国平均の49.5%を下回る44.3%という結果となった。

③  主観的幸福度を左右した福井県民の特徴

 上記の「社会生活基本調査」の結果から、福井県民はコロナ以前から、家庭や地域内での娯楽よりも、地域を一時的に離れる旅行によって楽しみを見出してきたことが分かる。しかしながら、もしコロナが長引くことを覚悟し、2020年の間に家庭や地域の中で、今、自分たちにできることを全うし、そこから日々の満足感、楽しみを見出す力を身に付けることができていれば、2021年以降、県外での娯楽に依存しない形で主観的幸福感を高めることができたのではないか。福井県の主観的幸福度ランキングの変化は、「現行の福井モデル」に守られていているおかげでもあり、守られているせいでもあると言える。言い換えると、コロナ流行直後の2020年、旅行どころではなかった状況においては、「現行の福井モデル」によって安定した主観的幸福度を保つことに成功した一方で、皮肉にもこのモデルに頼り、「社会基本生活調査」の項目①のような個々人が家庭内で自発的に行う自己研鑽、②③④のような地域住民たちが地域内で主体的に行う取り組みを通じて楽しみや生きがいを見出せなかったことが、2021年以降、主観的幸福度の相対的な低下、つまり、主観的幸福度ランキングの低下として現れたのではないだろうか。


最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回は、第三章をお届けします!!
 

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