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映画『コンクリート・ユートピア』公開初日のひと口感想


公開日の本日、ユナイテッド・シネマ新潟にて鑑賞してきました。

ネタバレにならないよう、自分なりのファーストインプレッションを簡単にまとめます。

世界各地で起こった地盤隆起による大災害で一瞬にして壊滅したソウル。

唯一崩落を逃れたファングンアパートには、居住者以外の生存者たちが押し寄せていた。救助隊が現れる気配は一向になく、街中であらゆる犯罪が横行し、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が起こりはじめる。危機感を抱いた住人たちは、生きるために主導者を決め、住人以外を遮断しマンション内を統制することに。臨時代表となったのは、902号室のヨンタク。職業不明で頼りなかったその男は、危険を顧みず放火された一室の消火にあたった姿勢を買われたのだった。

安全で平和な“ユートピア”になるにつれ、権勢を振るうヨンタクの狂気が浮かび上がる。そんなヨンタクに防衛隊長として指名されたのは、602号室のミンソン(パク・ソジュン)だ。妻のミョンファ(パク・ボヨン)はヨンタクに心服するミンソンに不安を覚え、閉鎖的で異様な環境に安堵しながら暮らす住民たちを傍目でみながら生活をしていた。

生存危機が続くなか、ヨンタクの支配力が強まったとき、予期せぬ争いが生じる。そこで目にしたのは、その男の本当の姿だった………。

公式サイト



たった一つ残されたマンションの住民が、普通の生活がなまじ守られてしまったばかりに、閉鎖的なコミュニティとしてどんどん狂気じみていく…

というサイコホラー的な雰囲気もありつつ、全体としてはサスペンスドラマとして進んでいくお話。

閉鎖空間でそこにいる人たちがおかしくなっていく一連のシークエンスは、日本の怪村系ホラーや、『ウインド・リバー』のようなド田舎を舞台にした陰湿系サスペンスを連想しました。

あるいは狂いっぷりがややコメディ調で楽しくすらある雰囲気は『 グリーン・インフェルノ』(大学生がボランティアをしに行った村の人々は食人族だった…)を思い出すようでもあったり。

後にも触れますが、非常事態とそれに際した人間というものを、極めて限定的な舞台とキャラクターで描いた寓話的映画です。

公開の4日前に地震が発生した今だからこそ、むしろ自分の災害時における振る舞いを考えるのに観るべき映画だと感じました。



倒壊しなかったという幸運が、逆に「今まで通りの暮らしを守りたい」という執着を生んでしまった。それがこの映画で描かれた悲劇の本質なのではないかと思いました。

アパートの住民にも、「今は非常事態だから考え方を変えなければならない」という意識それ自体はあった。しかしなまじ「普段通りの家に暮らせている」という現状が、本当の意味で非常事態を生き延びるためのモードチェンジを阻んでしまったのかもしれない。

先のコロナ禍においても、状況を無意識に過小評価してしまう平常時バイアスが感染拡大を招いていました。必要なものは必要な時に金で買えばいいという考え方が医療資源の枯渇をもたらし、感染病棟の不足を招き、収束への取り組みを遅らせてしまった。

そういう意味では、今作で舞台となったアパートに蔓延っていたのは平常時バイアスの究極系だったのだと思います。自分たちだけは今まで通りの「平常時」に生きているという幻想に取り憑かれ、それを守ろうと躍起になった結果ああいう結末になった。

ラストでヒロインがつぶやくセリフはその意味で、まさに象徴的でありました。非常事態には「普通」という感覚を捨てなければいけないのだ。

普通じゃない状況においては「普通」という感覚をいったん忘れ、そのときの状況と環境に適応しなければならない。それができることが、弱肉強食ではない、人間だからこその強かさなのかもしれません。

公開日の2024年1月5日から数えて4日前、偶然にもここ日本で、石川県の能登半島と、新潟県の上越を地震が襲いました。

私は新潟市在住で、元旦にはやや大きく揺れたし、家から海は歩いて行けるほど近いところにあります。しかし幸いにして、全くと言っていいほど影響は出ませんでした。だからこそこうして映画を楽しむことができているとも言えます。

今のような状況においては、こういう災害ものの映画について論ったり、映画館で映画を無邪気に楽しんでいることそれ自体でさえ不謹慎になりうるかもしれません。

でもむしろ、今のような状況だからこそ、自分も軽微とはいえ4日前に地震を体験したからこそ、たったいま映画館でこの映画を観ることには、少なからざる意味があったと思います。

これは少なくとも、『2012』や『イントゥ・ザ・ストーム』のような、災害をエンタメにしているディザスター映画ではありません。地震災害が自分ごとになっている今だからこそ非常時においてどう振舞えばいいのか、一つの寓話として教訓を与えてくれるように思います。

災害時に何をするべきか、いざ自分が被災するまでに何をしておきたいか。

行ける人はぜひ、今このタイミングだからこそ映画館で鑑賞して、考える一つのきっかけにしてもいいのではないでしょうか。

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