地に足つけて

農林水産業を支援するために設立された官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」が多額の損失を抱え2025年度末に解散予定。それまでは人件費もかかるため解散時の損失は120億円の見込みでそれは税金負担となるとのこと。

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投資やカジノやインバウンドなど、実態のない、地に足のついていないもので大儲けをしようという短絡はおかしい。

地に足ついた改善には労力がかかり、非効率に思えるというのは、理解はできる。例えば栽培も、無農薬、無化学肥料で行うためには本当に手間がかかる。それこそ、ラウンドアップでもまいて土や虫や水や環境を殺しながら除草をして、モンサントの遺伝子組み換え種や苗でも買って、化成肥料でごりごりにドーピングをすれば、ずいぶん楽に収穫が見込めるようになるだろう。

私は生計を立てるために栽培をしているわけではないのでそうしなくて済むけれど、農業で暮らしている方は、それでも不可測な気象・災害などで栽培していたものが一気にダメになる、つまり収入が激減する大きなリスクを抱えている。

「農業を守る」などと言われながら、その裏で農家の方々を、生活を、追い込み破壊していく策ばかりが採られている。TPPも種苗法改悪も、大きな利権のために得をする一部の企業や人の裏に、苦しめられ泣かされる多くの人々がいる。

栽培のAI管理や、ドローンでの農薬散布など、新技術で効率化を謳っても、それは過疎地で高齢化が進んでいる農業従事者の多くの方々の暮らしや経験とはかけ離れている(外野が外から良いと思ったものが、日々の実践には馴染まなかったりそぐわなかったりすることはよくある)し、新しいものを取り入れるためには当然出資費用がかかる。これまでずっと言われてきた大規模化、機械化にも、必要なのは大きな費用だった。(そして、その裏には当然、儲かる側があった。)

破綻する冒頭のファンドが、そのような場合の支援のために設立されていたのだとしても、結果は結局、大きな負債、国民のさらなる税負担のみだ。これからも赤を出し続ける2025年までの人件費も含め。

農家の苦境は、技能実習生の苦境にも直結している。海外から安価な労働力を得ることで、人手も足りず高齢化の進んだ日本の農業はこれまで維持されようとしていた。しかし、制度の元で起こっている様々な問題や、日本の経済力低下や今回のコロナ禍もあって、今後は「海外から安い人材」を、というのも難しくなるだろう。

食料自給率の低い日本で、これまで以上に離農が進んでいったら、今回のように輸出制限が起こったり、全世界的に物流が混乱したりした時に、どうするのだろうか。(今は蝗害の恐れもある。)

農業時従事者がいないと嘆かれる一方で、就農にはおそろしく高い壁があり、極めて閉鎖的である。できるなら私も農地を買い、栽培をしたいけれども、農家資格が無いために不可能だ。(新規に農家資格を得るためには土地や機材の所有、実質専従でなければならないなどのハードルがある。)


さて話を戻そう。労をかけず、すぐに、楽に、大きなリターンを得られそうなものには、当然大きなリスクが潜んでいる。入念な下準備や継続的な手間を惜しんで、盲目に、猪突猛進で突き進むと、自爆、だけでなく周りをも巻き込んで大きな打撃を与えることになる。

バブルも崩壊したし、リーマンショックもあったのに、何故、人は学ばないのだろうか。直近ではドイツ銀行のデフォルトもあった。

「すぐに効果が出そう」「手間をかけずに儲かりそう」なことの短絡的な選択・・・

地に足つかない、血の通わない、多くは利権の元で一部の人が巨大な富を得ることになるだけの、積極的に宣伝される(←得を得る人は当然宣伝するよね)「甘いかおり」に群がるのではなくて、一見非効率に思えても、手間や時間がかかっても、そこに実際にいる人々や地域をよく見て、皆でこつこつ調整、改善して、少しずつそれを共有できるほうがbetterなんじゃないだろうか。

近年特に顕著な労働問題だって、「安い人材」を使い潰すのではなく、そこにいる人々を活かし、雇用者・被雇用者が互いに信頼し合って、納得の上、無理なく持続的に働ける環境づくりをしていったほうが、皆に利があるだろう。(働く人がいなくなったら、当然事業は継続できなくなるわけで、外食産業やコンビニなどで実際それが起こっていたのがコロナ前。それ以外の業種でも、緊急事態宣言によって体良く人手不足を補っていたし、宣言解除後もコロナと絡めて事業縮小をしているところの多くには、赤を補填するための人件費削減の意図が透けて見える。人を集めないためだというセールやキャンペーンの中止、時短営業だって、赤の体良い補填でしかない。)


個々の労働者ではなく人件費を抑えたい雇用主や派遣会社ばかりが利益を得る、働きたい人がいる一方でそういう人に職が無い、のに深刻な人手不足だという社会。

耕作放棄地が増え、荒れる大地や後継者がいなくて農地を手放したい人が増える一方で、土地を求め、土を耕したいと思っている人がそうできない社会。

定年を引き延ばし老人になっても働くとか、大学生を大学に行けなくなるほどアルバイト漬けにするとか、長時間労働や残業が当たり前の社会。

当事者や実直な働き手が泣きを見る、根や実のないところばかりが潤う、利権や中抜きまみれの社会。

音楽興行だって、チケット代以外にシステム利用料とやらばかりが嵩んでいる。企業が利益を得ても、社員や顧客に還元されるのではなく内部留保ばかりが増えていく。ふるさと納税だって、サイトのシステム料に何割も割かれて、自治体に入るお金は寄付額からずいぶん目減りしている。大学入試改革だって、これから始まるとされている旅行費用の助成だって、給付金事業だって、結局、委託によって「お友達」が得をしただけだ。

巨額をかけた派手な広告やイメージで躍らされた人々が空虚なお祭り騒ぎ。「ニッポンすごい」「ニッポン素晴らしい」と悦に入っている人々の影で、どれだけ国力が落ち、社会の貧困化が進んだか、冷静にデータを見てみればいい。

給食が無くなると三食食べるのにすら困る、家で満足に食事をとれない子ども達や家庭。奨学金を借り、バイトに明け暮れなければ学費や生活費が賄えない大学生達(彼らは昔の楽して遊んでいる大学生のイメージとは大きく異なる生活をしている。CDも買えない、高い服も買えない、ライブにだってそうそう行けない、サブスクやファストファッションやYouTubeで繋ぎながら、ブラックバイトに搾取されながら、何とか大学を卒業しようとしている。卒業したとしても、就職が保証されているわけではない。それでもそうしなければ、就活のスタートラインにすら立てない職業があまりに多い)。

「自己責任」だと弱者を切り捨て、富める者がますます富み、貧しいものはますます苦境に追い込まれる新自由主義の構造の中で、一億総中流なんて、とっくに過ぎ去った。見えにくい貧困だけでなく、目に見える貧困がどれだけ増えたことか。

ちぐはぐだ。ずれている。

大量生産大量消費で環境も食い潰しながら、経費削減のために国内雇用を切り上げ、拠点を安価な海外に移し、スカスカになった生産ライン。東京一極集中の裏でスカスカになった地方、インフラ。豪華特急やリニアに巨額の投資が行われる一方で、どれだけのローカル路線が減便・廃線になったことか。鉄道だけでなく、バス路線だってどんどん消えていっている。郵便だって、気づけばポストも減り、配達日も減り、窓口も削減されようとしている。


正直、限界が近づいている、というか、既に限界だった。


今回のコロナ禍においては、否応なく社会改革を進めざるをえないだろうから、地に足ついた、人に優しい、皆に無理のない持続可能な社会にシフトしていってほしいなと、考えている。

安く働いてくれる(働かざるをえない)人々を酷使できる海外で生産するとか、外から来てお金を落としてくれる人々への期待で経済を回そうとするのって、自分たちでできることで社会や経済を良くしようっていうのを放棄しているだけ、つまり国内の力を全く信頼していないし努力もしないだけなんだよ。

限られた一部の人が大きな得をするより、皆で分け合いながら幸せになれるほうが、社会として全体的に見て豊かになっていくと思うよ。

本当に日本を好きで愛しているなら、躍らされているだけではだめだ。


優しくありたい。優しく社会、世界であってほしい。

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