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いのる「夜へ」佐藤聰明(1992)

1.RUIKA(1990)

音楽は本質的に死の香りを含んでいる。
あるいは彼岸から吹く、異界の風の響きを堪えている。
私たちが音楽に深く感動するのは、
音の隙間から響き渡る異界の声に身を晒すためであり、
音の縁にオーラのように薄く煙る、
幽冥の香りをきくからである。

RUIKA プログラムノート

2.夜へ(1991)

世紀末という言葉はいかにも西欧的な語感のある言葉で、
私は好まないのだが、しかしいま、人類は数百万年にわたる歴史を経て、
幼いまま歳老いてしまい、深い黄昏の岐(ちまた)に茫然と佇んでいる、
と思えてならないのだ。
古代中国の聖人は
「今生に度せずんば、さらに何れの生に向かって、此の身を度せんや」
と語ったが、この箴言ほど今の私の魂を鋭くえぐるものはない。

「夜へ」ライナーノーツ 解説ー佐藤聰明


3.HOMA(1988)

「ホーマ」はサンスクリット語で、浄かな火の意。
漢語<護摩>は音写であり<焼施>と訳される。
聖火に犠牲を供え、天の嘉納を願うからである。
1988年の夏、私の祖母は数え九十歳の天寿を全うし道山に帰した。
この音楽は彼女の魂を言祝ぐ鎮魂の曲。
サンスクリット語のマントラによって唱われる。

「夜へ」ライナーノーツ 解説ー佐藤聰明