コロナにまつわる短編集になります。 ・「家族」 原稿用紙14枚 ・「伝統的病人」原稿用紙6枚 ・「Thoughtless Confession」英文 / 原稿用紙3枚 以上の3編を掲載しています。 家族 「実はね、今夜、東京で会おうという予定がある」 父母はそろって愁眉となり、だらけて坐った私に、過剰なストレスを感ずるのか、何秒間か何も発さず、天を仰ぎみはじめた。神よ、もっとましな子を授けてくれりゃよかったのにな。 「総理大臣も、厚生労働省も、都知事も、医療関係
とある喫茶店に、一人の男がいました。 男は流行に敏感で、とてもスタイリッシュな格好をしていました。若くて容姿端麗で、歯は白いし、笑ったらこっちまで、ふふ、つられて笑ってしまいそうになるほどです。一定数の女をとりこにする、爽やかな色っぽさがあって、輪の真ん中にいるタイプの人でした。 ただ、男は一人で喫茶店にいました。紅茶を飲み、ケーキを食べ、本を読むのです。 一日なら不思議ではないでしょう。来る日も来る日も、彼は紅茶、ケーキ、本、この三拍子でした。ときどき、ペンを胸ポケ
ある日のこと。資産も尽きて生活に困っている男が、夜に、金持ちの家の庭へと侵入した。まずはこの家を偵察することから始めたのだ。しかし男は泥棒のプロでもなく、それどころか盗みを一回もしたこともない。緊張と不安が入り混じる中、びくびくと震えている。 だが、そんな中だった。なにか、光るものがある。どうやら傘立ての裏からだ。男は音を立てないように、傘立てをどかし、後ろの光るものを手にとった。 「なんだこれは」 男はそう言って、持ってきた懐中電灯で光るものを照らした。 その瞬間、