ひと彫り、ひと彫りした先に唯一の作品が出来あがる| Fáni vol.1 工芸作家・森崎湧斗さん(『SALAK』代表)インタビュー

自らの目標に向かって精力的に手を動かしている菜花と同世代の方に話を聞くインタビュー企画、「Fáni」。
第1回目は、福岡を中心に活動する工芸作家の森崎湧斗さんにお話を伺いました。

森崎さんは大学で工芸を学び、2019年7月に自身のブランド『SALAK』を立ち上げました。
今では工房にこもり、食器やカトラリー、アクセサリーなど多くの作品を生み出す毎日。木材ならではの暖かみや柔らかい雰囲気をたたえた作品は女性を中心に人気を集めています。

「20代半ばで自分のブランドを立ち上げるのは考えてなかった」という森崎さんのこれまでの道のりと目指す理想について聞きました。

画像1

美しいものを作ってご飯を食べていくと決めた高校時代

高校時代、雑貨屋でとても綺麗な椅子を見たんです。飛騨で作られた継ぎ目のない椅子。うっとりしたのと同時に「こんな美しいものを作ってご飯が食べられるなんていいな。自分もこうなりたい」と思いました。富山にある美術系の大学が工芸や手しごとに強いと知って、そこに進学しました。

大学に入って、一番最初に作った木工の作品はボウル。作っているときからめちゃくちゃ楽しくて「これだ!」と思ったのを覚えています。それからは、授業以外の時間もひたすら自主的に作品を作っていました。友達からの遊びの誘いを断っても作って、結局在学中に200点は作ったと思います。

大学四年生の時にタイに一年間留学して、アートを学びました。木工で食べていくには名前を上げる必要があるし、それには「アート的な思考」が欠かせないと思ったんです。工芸は「用途」から考えるけど、アートは「コンセプト」から考える。なによりタイは日本よりもアートに対する考え方が自由で「楽しく制作する」ことが大事にされています。僕も向こうにいる時に先生や仲間から何度も「サバイ(楽しく)」と声をかけてもらえて、それが励みになっていました。自分の制作の軸を固める上であの一年はとても大きなものだったと思っています。

画像8

富山に戻って大学を卒業した後は、一年近く漆職人の方のところに弟子入りしていました。元々弟子を取りたくない人で、嫌がられているところを無理言って弟子にしてもらったので草むしりや屋根の修理など頼まれたことは何でもやりながら技術を学びました。技術そのものはもちろん、「技術一本で家族を養ってきた人の近くにいたい」と思ったのが弟子入りの理由です。

日本では、大学を卒業したら毎日が「仕事か、寝るか、ご飯を食べるか」。それならば、「一番時間を費やしている仕事は本来楽しくあるべきなんじゃないか」と強く思うようになりました。しかも、それを実現している人を間近で見れたので「自分もこういう風になりたいな」と。技術はもちろん、生き方を考えるうえで富山に行ったのはすごく良い選択になりました。

『SALAK』を作ったから人とのつながりができた

職人さんの元を離れた後もそのまま富山にいる予定でしたが、当時住んでいた家を出ないといけなくなり、それがきっかけで2019年の4月に福岡に戻ってきました。正直、最初は迷いがありました。福岡に帰ってきても知り合いもほとんどいないし、何をすればいいのか分からなかった。
ただ、これまでやってきた部活や趣味を振り返ったときに、自分は「人から用意されたり、教えられたりするのが苦手」かつ「自分の意思でやったことは結果が出る」人間だなと。

それなら変に就職するよりいいか、と思って立ち上げたのが『SALAK』です。タイ語で「木を彫る」という意味の言葉で、これは僕の造語ですが「皿工」(皿を作る工の意)ともかけています。

画像8

↑イベントではカトラリーやアクセサリーなど様々な種類の作品を販売している

とにかく作品を作って売ろうと、大川の木工所から木材を仕入れて大名の工房で一人でひたすら作り続けました。同時に、雑貨屋さんに作品を置いてもらえないか営業に行ったり、オンラインで販売できるようにホームページを作ったり。当初はオンラインでの注文が多かったのですが、そのうちイベント販売の際も声をかけてもらえるようになりました。イベントは、お客さんの顔を見て作品を売れるのが嬉しいですね。普段、一人でこもって作品を作っている分、人と話せるのが楽しいし、新しいつながりもできていく。何より、「作品が良ければ売れるんだ」ということを実感できるのが良いです。

人に教えるのが好きなので、不定期でワークショップも行っています。何かを作る時間は楽しいもの、その気持ちを感じてほしい。今後、力を入れていきたい仕事のひとつです。

画像3

↑.中央区大名の工房で行っているワークショップの様子

誰にもまねできない、あえて人がやりたがらないことに意味がある

いま作っている作品のなかで、主力になっているのはお皿やスプーンといったカトラリー。どんな人にとっても食事は欠かせないものだし、僕の作ったもので食事の時間が豊かになってくれたらとても素敵だなと。

また、オーダーメイドの注文を受け付けているからこそ、できた作品もあります。寄木アクセサリーやコーヒーメジャーは、お客さんからのオーダーがきっかけで作るようになりました。ミリ単位に削った木を寄せ木にしてアクセサリーを作るなんてとてもめんどくさい。でも、めんどくさいからこそ誰もまねしたがらないし、できない。だからこそ、僕が作る意味があると思っています。
ちなみに、ピアスの注文があったときに「自分で付け心地を確かめたい」と耳にピアス穴を開けました(笑)注文がなかったら開けてないだろうな。

画像8

↑寄木で作ったイヤリング。十種類以上の銘木を使い、色も木のそのままの色を活かしている

作品にはあえて、手で彫った跡を残すようにしています。もちろん、跡を残さずに仕上げることはできるのですがそれでは機械がやるのと変わらない。手彫りの跡を残すことで暖かみや「人が作っている」感じが出てきます。食器も大きな家具も機械が「きれいに」作れる時代だからこそ、そういった人間臭さが求められていると考えています。

作っているときはひたすら無心。手しごととはいえある程度の順序はあるので、合理的にすべきところと自分の個性や芸術性を出すところは切り分けて考えるようにしています。

相手のイメージ以上のものを作って、良い意味で裏切りたいという気持ちが常にあります。楽しくワクワクした気持ちで創ったもので、相手を喜ばせられるようになるのが理想です。

画像6

↑オーダーメイドで作ったお皿。どんな料理を載せるか聞いてからデザインを考えるという。

20代のうちに「木工といえば森崎さん」と言われるようになりたい

『SALAK』を立ち上げて半年ちょっと。「順調だね」「調子良いね」と言っていただけることも多いのですが、実感としては全然...つまづいてばかりです。やりたいことや目標にまだまだ追いついていないと感じています。

いまは一人でずっと作品を作っていますが、料理やガーデニング系の人とコラボして仕事をできたらと考えています。人とやることで、これまでにない作品ができるのではないかと思いますし幅が広がるのは楽しいので。

画像7

↑ブランドロゴの焼き印を捺した作品。焼き印は真鍮ブロックを削って作った。

一方で、木工に限らず、漆や錫などの素材も使った作品も作りたいです。だから、肩書を木工作家ではなく「工芸作家」にしています。せっかくいろいろな技法を学んできたのだからそれを活かしたい。最終的には、何を使ったどんな作品でも「『森崎さんのSALAKの作品』」と見た人が分かるようになるのが目標です。

そのためには、まず「木工といえば森崎さん」と言われるようにならないといけませんね。
ありがたいことにオーダーメイドの注文が結構たくさん来ていて、「作りたいものが待っている」という感覚がモチベーションになっています。何より、僕の強みは「人生でこの仕事以外やる気がない」こと。目の前の仕事をめちゃくちゃ大切にやっている自負もあります。一日も早く目標を達成できるようにこれからもワクワクする作品を作っていきます。

画像8

↑取材時、大名のギャラリーにて(2020年2月撮影)

※本記事の画像は、SALAKより提供。

プロフィール
森崎湧斗(もりさきゆうと)
1995年、福岡県生まれ。富山大学にて工芸を学ぶ。在学中から工芸作品の制作を精力的に行い、個展やイベント出展も多数。2019年7月に自身の工芸ブランド『SALAK』を立ち上げる。イベント出展やワークショップ、通信販売などを行っている。
Instagram :https://www.instagram.com/studio_salak/?hl=ja
ホームページ:https://r.goope.jp/studio-salak


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?