ひだりてが掴む | ひび
この一ヶ月の間に立て続けにものが壊れた。というよりは、折れた。
最初は、気に入っていたスプーン。朝、寝ぼけた頭で残り物のカレーとご飯を食べるだけお皿に移して、盛り付けの最後にグッと押し付けた途端、ポキっという音とともに柄の真ん中あたりでまっぷたつになった。
次は、携帯の充電器。延長コードのコンセントから抜いた、と思ったらバキッという音がして、慌てて目線を落としたらプラグ部分はコンセントにささったまま。手元にはプラスチックの塊が残った。慌ててプラグ部分を抜こうとしたら延長コードの電源を切っていなかったのでちょっと感電した。ちなみに、スプーンが折れた日の夜の出来事だ。
ついインスタのストーリーに「なんでこんなことになるんだ」と文字オンリーで書き込みをしてしまった。さすがに仕方がないと思う。
最後は、デスクスタンド。クビの部分を動かして角度を調整できるものだったが、何年も使っているのでバカになってきており、30分おきにグイと上向きにしてあげる必要があった。作業中、なんも考えずにグイとしたら突如アタマの部分がだらんと落ちた。クビの骨(2本)が折れたのだが、直前の注意力がゼロだったのでどんな音がしたのかも覚えていない。
胴体から頭につないである内部コードで「首の皮一枚」という感じでぎりぎりつながっていたが、確実に死んでいる。テープや接着剤ではどうにもならなかった。おかげで、いまも絶妙な薄暗さの自室でこれを書いている。
振り返れば、壊れたものはすべてひだりてが掴んで折れたのだった。
私の利き手は、おはしも鉛筆も右手で、ひだりてではそれらを持つことすらままならない。けれども、生活のなかでひだりてはまあまあ活躍している。
プリントやトランプを数える、財布からお金を出す、など地味に細かい作業はひだりてがやっている。というより、ひだりては力が弱いので右手でものを支えないと、そこを起点とした細々した作業ができない。逆に、フライパンや鍋を傾けながら中身をお皿に移すときはひだりてが柄を持っている。コンロの右隣に作業台があるからだ。握る力のすべてを込めるのでときどき手の甲に血管が浮く。
ひだりては「ほどほどの力を出すのが苦手だ」という。ものを引き抜いたり傾けたりするだけのことでも全力を注ぐ。そして気がついたら壊しているらしい。
ひだりては「ただ持っただけなのに。なんでこんなことになるんやろ」とも言っていた。
あんまり責めたくないけれど、それって人にひどいことを言ったり、やったりして「そんなつもりはありませんでした」っていうやつと一緒やんと憤りを覚える。ついでに、これまでの人生の中でリアルにそんなこと言ってきたやつ何人かの顔が浮かんで鬱屈した気持ちになった。しばらくして自分だってやった側だったときがあるやろ、偉そうなこというな、までたどり着いて思わず犬のような唸り声を上げてしまった。
とにかく、これ以上ものが壊れてはかなわない。
しばらくは、ひだりてとの距離感をはかりながら、ひとつひとつの動作を右手に任せるべきか、左手に任せるべきか逐一判断して過ごそうと思う。
2020.5.25
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