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ギリギリまで準備しない。それもまた、計画の範囲内なのだ。

「あーもうわかってるから」

迷惑そうに言い放って、彼はリュックをわしづかむ。


顔を作り直して、「とーしゃん、たっちー」とせがむ次男に向き合う。

ニコッと笑い、パチンと手を合わす。


「行ってきます」

その後、彼はこっちを見ずに出て行った。


ドアがバタンと閉まる。

ドアの向こうで、タッタッタッ…と走って行く音が聞こえる。

ワイシャツの裾が、少しズボンからはみ出ていた。

「シャツの裾がズボンから少し…」

って言いかけたところで

「あーもうわかってるから」


明らかに嫌な顔をして、うるさいなって口調で夫は言った。


ちょっと落ち込んだ。

そんなに怒らなくてもいいじゃないか。


一方で、彼の最優先事項も見えていた。


とにかく早く家を出ないと。


なのに優先してあげなかったな。

と反省した。


彼は何事も、自分のペースで進めたいタイプだ。

マイルールは決して崩さない。


似たような素質を持つ、女の子のママが

「ギリギリまで学校行く支度をしない」

と困っていたのを思い出す。


「でも、登校班には間に合ってるんだよね?」

「そうなのよ。班の出発時間ギリギリか、少し遅れてなんだけどね。

スーッと後ろから付いてくの。

ほらママ、間に合ってるじゃんって言うの。」


彼女も夫も、これが自分のゴール。

マイペース。

予定通りなのだ。

過程はどうであれ「間に合う」って目標には到達している。

それでいいって思ってる。


夫の支度は、毎朝バタバタだ。

出発15分前くらいに、いきなり慌て始める。

シャツ着て歯磨きして水筒入れてスマホ探して…


バタバタ、バタバタ。

アンパンマンがバイキンマンをパンチするくだりみたいに、いっつも流れが決まってる。


もう少し早めにスタートすればいいのに。

側から見てると思う。

でも準備が始まる時間はいつも、出発の15分前。


昔はイライラしながら彼を見ていた。

だんだん、そういうものだと割り切り始めた。彼が慌てていても気にしない。


彼は彼のゴール(この時間には家を出る!)に向けて、必死で走ってる。

それを理解できるようになったから。


なのに今朝は、横やりを入れてしまった。

「シャツの裾が…」

みたいな事を聞く、っていうのは、彼のルートにない。

予定外。


邪魔でしかないし、予定が狂うと自分の力が発揮できなくなる。

って、分かってたんだけどなあ。


うっかり判断ミスしちゃう、こんな日もある。

仕方ない。

今度は気をつければいい。




ふう。


記事を書き終わり、お出かけの支度を始める。

今日は家族でヨシタケシンスケ展へ行く。

水戸から宇都宮へ、プチ遠出だ。


私の傍で、次男が踊っている。

パンツ一丁でくるくる。

絶賛イヤイヤ期の彼は、出かける間際まで着替えをさせてくれない。


なので放置。

出る直前に服を着せればいい。出発に間に合えばいい。


あら。

夫と同じじゃん。


でも夫は、パンツ一丁の男を追いかけ回す。

「ほらー!着替えないとお出かけできないよー!」


それ、毎朝のあなたの姿よ。


言わないけど。いつか気づく日が来るのかな。

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