2022年大阪大学化学の大問3が出題ミスの可能性についての考察

『構造"決定"できない、構造決定問題は成立しえないのではないか。』

これまでの経緯のまとめと個人の意見を書いています。

2次試験当日かその次の日には、Twitter上で出題ミスを指摘するツイートが上がりはじめて、現在のところ、Youtube上に関連する動画が上がったり、Google検索のサジェストに「阪 大 化学 出題 ミス 2022」とでてくるほどには話題になっている。

阪大は化学に関して、去年も出題ミスをしていて、去年は2次試験の2日後には、出題ミスの内容と対応が発表されていたが、今年は現在のところ発表はない。

出題ミスの可能性があるとされているのは、大問3の有機化学の問題で、いくつかの条件から化合物の構造を特定し、それを回答する、いわゆる「構造決定問題」と呼ばれる問題なのだが、これが条件不足のために構造を決定できないというもの。

問題文の2行目には、「これらの分子の構造を決定するために,以下の操作を行った。」とあるにも関わらず、問題文のすべての条件を駆使しても、条件不足のために構造を決定することができないため、矛盾が生じており、問題が成立していない。

予備校等の解答速報では、問題を解く側が自主的に問題文にない条件を付け加えて、"解答の一例"として掲載しているが、駿台予備学校の解答速報と合わせて公開される問題分析には「化合物Aの分子量は300以下と与えられていたが,200以下の間違いだろう。」と条件設定の不備の可能性が指摘されている。

今回の出題ミスがこれまでの出題ミスと比べて、特段に重大なのは、化学全体の配点の約4分の1に影響を与えることと、「構造決定問題」の特性のために、受験生が時間をかけたのに白紙という事態を招きやすいことである。

「構造決定問題」において、構造式を書かせる問題では、「考えられる構造式をすべて示せ」といった特段の断りがない限りその化合物の構造を1種類に決定できることが前提である(その根拠として、過去の大阪大学の入試問題においても、記載の条件だけでは複数の構造が考えられる場合には、「すべて記せ」と断りが入れられている。)ため、受験生は問題の条件不足のために、「考えられる構造」が複数残った場合でも、構造を1つに絞れるはずだと考え、実際には存在しない条件を探しまわり、最終的に「自分に読み落としがあるのではないか」、「自分の知識不足」と判断して、その問題を白紙で捨てることになり、ただでさえ厳しい阪大理科の解答時間だけを失う、といった結果を招いた受験生がいることは想像に難くない。

構造決定問題は、白紙or完答といったところがあり、ある意味賭けのようなところがあるので、時間をかけたにも関わらず、構造を絞り込めず、白紙のまま次の大問へ行かざるおえないという状況の、精神的なダメージはかなりのものだったと思う。

結果的に各予備校の解答速報などに掲載された解答(回答者が「炭素数12」という、問題にない条件を付け加えた場合)は、ただ「考えられる構造」のうちの1つでしかなく、他の「考えられる構造」を排除して、その構造を回答欄に書く科学的根拠は一切ないといえる。もし、これが解答として採点された場合、白紙で提出した、正しい考察をした受験生があまりにも不公平だと思う。

他にも、「有機化学の構造決定が得意だから完答したかったのに、大問3を解いてる内に、異変に気づき、出題ミスに気づいて捨てた人」や「大問3の最初の問1(リード文の条件と元素分析の条件から、分子式を求める問題)で、解が1通りに定まらないために、貴重な試験時間をかけて何度も計算しなおした人」もいたかもしれない。

これは完全な主観だが、阪大を合格するために受けている受験生の中に、「例年有機化学の大問3を何も触らずに、最初から捨てている人」なんていないのではないだろうか。

こんなことになってしまった今、完全に公平に採点することは叶わないのがとても残念であるが、最終的に、「考えられる構造」のうちの1つ(炭素数12であれ、18であれ)を書いた人も、1種類に絞り込めず白紙で提出した人も、大問3には時間をかけている訳だし、そもそも、「構造を"決定"できない構造決定問題」は問題として破綻していると思うので、過去の対応からも全員を正解扱いとするという結果に落ち着くのではないかなと思われる。


受験生は人生をかけて、何千時間もの時間を受験勉強に費やしているにも関わらず、問題の初歩的なミスのために、正しく学力が測れない、今回のような事態が起きたことはとても残念であり、2017年物理のように1年後にようやく対応されるといったことがないよう、そして、来年以降の受験生にこのようなことがないように、この件について大学側がきちんと発表して対応をし、文科省への報告や、再発防止策を策定すべきだと思う。

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