欠落した記憶(僕が失明するまでの記憶 8)

 異質なものに対して攻撃性が働くのは世の常である。いじめや嫌がらせが始まったのは2年生に挙がった頃からだった。靴を隠されたり、不愉快な落書きをされたり、後ろからボールを投げつけられたり、言い出せばきりがない。おなかが痛いと言って学校を休むこともあったし、原因不明の吐き気を催して病院へ行くこともあった。その度に「自家中毒」なる病名をもらい、甘いシロップの薬をもらって帰ってきたが、もちろん大した効き目はなかった。

 どういうわけか2年生の担任がどんな人物だったのか、全く思い出すことができない。名前だけでなく、年齢、性別、性格、ありとあらゆることを全く覚えていない。思い出したくないと心のどこかで無意識が気持ちを抑え込んでいるのだろうが、まあ今となってはどうでもいい話だ。

 欠落した記憶の断片を拾い集めてみると、心臓の病気が見つかったのはちょうどこの時期だった。右心室と左心室の間にある壁に穴が開いている疾患で、基本的には先天性の病気のはずなのだが、何故か2年生の検診ではじめて異常が検知された。確かに胸に穴が開くほどの痛みを抱えていたのかも知れないけれど、本当に心臓に穴があることを知ったときは、もう死ぬのではないかと真剣に思い悩んだ。

 またこの時期はいじめがあった反面、同じクラスの女の子たちがこぞって味方になってくれた。いじめっ子に対してかばってくれたり、言い返してくれたり、やさしく気遣ってくれたりした。何がそうさせていたのかは全く分からないが、その頃の僕の、他の子とは違う雰囲気に女の子たちは何らかの興味なり好意なりを持っていたようだった。女の子の誕生日会に招待されたのもこの時期だけで、しかもずいぶんたくさんの誕生日会に出席した。もちろんどの女の子の家も大きくて立派だった。はじめてバレンタインデーのチョコをもらったのも、はじめてキスをされたのもこの時期だった。