変化(僕が失明するまでの記憶 12)

 2学期の途中、眼帯をして学校に戻ると、担任の先生が変わっていた。頼りなげな若手教員が辞め、F先生という五十代ぐらいと思しきベテランの女性教諭が赴任し、後を引き継いでいた。背はそれほど高くないが、年齢相応な太り方をしていて威厳と貫録があった。その一方、眼鏡の奥にある細く優しい目には子供への愛情が感じられた。この先生なら信頼していいと思った。

 変わったのは担任だけではなかった。クラスメイトの態度が一変していたのだ。いじめの中核メンバーも、それを見て見ぬ振りをしてやり過ごしていたその他大勢も、皆一様に僕の登校復帰を歓迎しているようだった。かえってこちらが居心地の悪さを覚えるほど、尊敬と畏敬の念を抱いているようにすら見えた。中でも驚いたのが、いじめの主犯格だった悪童が、率先して声をかけてくるようになったことだった。まるでこれまで何もなかったかのように、昔からずっと無二の親友だったかのように。

 学年が終わるとともにF先生はまた別の学校へ転任していった。その間はもちろん、その後小学校を卒業するまで、僕は一度もいじめや嫌がらせを受けなかった。F先生が僕の不在中にベテランらしさを発揮して何らかの効果的な指導を行ったのか、左目を失ったその不完全さがかえって周囲に親しみやすさを生み出したのか、入院生活を通して僕自身が精神的成長を遂げたのか、原因はよく分からなかったけれど、少なくとも言えるのは、わずか数か月でそれまでの地獄を極めた状況が跡形もなく消え去り、学校が居心地のいい場所に様変わりしたことだった。

 環境が変われば心持も変わる。いつしか僕はリラックスしてクラスメイトと話せるようになった。他の子どもたちと同様、親しみを込めた綽名や呼び捨てで友達を呼ぶことができるようにもなった。左目を失ったのと引き換えに、僕はようやく普通の小学生になった気がした。