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[読書ノート]24回目 3月7日の講義(第二時限)

講義集成13 1983-84年度 275頁~291頁

今回のまとめ

  • 真理という言葉の4つの意味

  • ソクラテスの継承者としてのディオゲネス

  • キュニコスは、哲学の極端化

真の生というテーマ

政治倫理としての真の生

 キュニコス主義は、始めから終わりまで(ディオゲネスからグレゴリオスに至るまで)、真理を表明し真理表明術アレーチュルジーを実践するそのようなやり方として、つまり生の形式そのものにおける真理の産出として現れる。私(フーコー)はここに、現代哲学においてはおそらくはるかに小さな重要性しか持たないけれども、十九世紀以来の政治倫理と呼びうるようなもののなかでは間違いなく非常に重要である、真の生というテーマを見いだしたように思う。

真の生とはいったい何か

 生(における行動様式、感情、態度)が問題となっているとき、真であるという形容がどのようにして可能だろうか。真の生について、まずは一般的なやり方で、ただしキュニコス主義をその適用地点として取り上げつつ扱っていくが、その前に、キュニコス主義以前――ギリシア哲学において真理の概念について整理する。

真理アレーテースの4つの意味・形式

①隠蔽されざること

 類語として、ネ=メルテースは、語源的に「騙さない」「欺かない」を意味する。
 ア=レーテースとは、隠されず隠蔽されずにその全体を視線に差し出すもの、完全に可視的なもの、それ自身のいかなる部分も隠匿されず覆い隠されていないもののことである。

②混合されざること

 しかし、ただ単に隠蔽されていないものだけでなく、いかなる付加も追加も受け取らないもの、自分自身とは別のものとのいかなる混合も被らないものについても、それはアレーテースであると言われるだろう。
 (言い換えると、)自らに無縁な要素によって変質させられていないもの、それが現実にそうであるところのものを変質させそれを隠蔽するに至る要素によって損なわれていないもののこと。

③まっすぐであること

 エウテュスという語は、直線的なものを意味する。このまっすぐさは、まさしくそうしたまっすぐさを隠蔽する屈折や折返しに対立する。また、真であるものにとって、変質をもたらす多種多様性や混合にもやはり対立する。
 したがって、一つの行い、一つの振る舞い方は、それがまっすぐであり、それがまっすぐさに合致している限りにおいてアレータイと全く自然に言われるだろう。

④動かず堕落しないこと

 存在し、あらゆる変化の彼方に自らを維持するもの、同一のまま変化も堕落もなく自らを維持するものは、アレーテースであると言われる。
 ①隠蔽されていない、②混合のない、③まっすぐな真理は、(①②③であるという事実そのものによって)変化も堕落もない同一性のなかに自らを維持することができるのだ。

ロゴス・アレーテース

 この真理概念は、その4つの意味とともにロゴスそのものに対して適用されている。それは、命題ないし言表として理解されたロゴスに対してではなく、語り方として理解されたロゴスに適用されているということ。
 ロゴス・アレーテースとは、単に、正確であるとして真理の価値を受け取ることのできるような命題の総体のことではない。それは、①そこでは何一つ隠蔽されていないような語り方。②そこでは偽なるものや臆見や外見が真なるものに混ざり合うことのないような語り方。③まっすぐな言説、諸規則や法に合致している言説のこと。④同一にとどまり、変化せず、堕落も変質もなく、打ち負かされることも覆されることも反駁されることも決してないような言説のこと。
 (フーコーは、アレーテースが適用されうる他の例として、真実の愛アレーテース・エロースを取り上げ、上記と同じように4つの意味で整理する。)

真の生アレーテース・ビオス

 まず、キュニコス主義的語義の外で標定していく。主としてプラトンのうちに現れるが、クセノポンのうちにも見いだされる――哲学的練り上げられる前、その自明でありふれた意味においてとり上げる。

①隠蔽されざる生

 いかなる影の部分も包み隠していない生――それは、完全な光【可視的であること】に立ち向かうことができ、万人の視線に対して自らを躊躇いなく表明することができるような生のこと。(例えば、)存在し行動するやり方について、それがその意図とその目的について何も隠していないこと。ここでは「単純さ」が次のように特徴づけられている。変化がないということ、実際に起こることと言説や幻影やしるしとのあいだの分離ないし食い違いによって生じうるような欺瞞もないということ。

②混合のない生

 善と悪の混合、快楽と苦痛の混合、悪徳と徳の混合のない生。プラトンは(『国家』第八巻で)民主的人間を、雑多な要素から成る人間、自らの欲望や自らの欲求や自らの魂の動きの多数多様性にとらわれている人間として、真理にふさわしくない人間と描写している。

③まっすぐな生

 諸原則、諸規則に合致した生、ノモスに合致した生。プラトンがシュラクサイ人に提案しようと考えていたのは、法であり、政治的秩序。そのような諸規則に従う生のこと。

④神的な至幸の生

 真の生は、混乱、変化、堕落、転落を免れる生であり、自らの存在の同一性のなかで変容なしに自らを維持する生。一方では、生を支配や統御に服従させうるもののすべてに対する非依存、非奴隷として理解された自由が、他方では、自己の自己に対する統御および自己の自己による享受として理解された幸福エウダイモニアが、生の生自身に対する同一性によって保証されるということ(真の生は自由と幸福を保証する)。

 以上が、図式的ではあるが、これから(キュニコス主義について)やりたいと考えている分析のためのバックグランドとなる、真実の生という概念に認められていた意味である。

ソクラテスとディオゲネスのシンメトリー

 ディオゲネスは(貨幣変造に関わったことで)シノペから追放されたあとデルポイに赴き、アポロン(の神託)に助言と忠告を求める。それへの解答がディオゲネスの生涯における使命となる。そして神託とは、「パラカラッテイン・ト・ノミスマ(貨幣の価値を変質させよ)」。
 一方は、デルポイの神の言葉を聞いて、自分が人間のなかで最高の知者であることを知り、自分自身を知ろうとした。他方は、デルポイの神から、それとは全く異なる使命、すなわち、貨幣の価値を変えるという使命を授かった。このように、(ソクラテスとディオゲネスという)二人の人物像のシンメトリーが打ち立てられる。

哲学の極端化と拡大適用

 私(フーコー)が思うに、キュニコス主義が真の生に関して行うのは、アレーテース・ビオスの貨幣・規則ノミスマをとり上げて、それが受け取ってきた伝統的な意味に最も近いところでそれに手直しを加えることである。つまり、真の生の諸原則(①〜④)から出発して、それらのテーマをその極限地点へと押し進めることによって、伝統的に真の生[として]認められてきたものとはまさしく正反対であるような一つの生を明るみだすことになる。
 真の生というテーマにいわば渋顔をつくらせること(テーマの反転)――そこに、哲学の一種の極端化、一種の拡大適用を見ることが【キュニコス主義の生の形式を理解するために】必要だろう。

今回は以上です。次回からは、特にディオゲネスについて様々な角度から読解、分析が進められます……が、整理するのに苦労する気配が、濃厚です。

私的コメント

 今回は、文量が少ないですが、キリがよいのでここで区切ります。
 内容としては、やっと「真理」「真なること」という言葉の意味……ニュアンスが明確に整理されましたね。そして、読解上の難しさもないと思います。
 コメントとして、言い添えておく追加の情報があります。それは、真理のいわば5つ目の意味なんですが、講義の中では言及されず講義ノートに残されているものです。これまでは、そういう情報について、適切な場所で「注釈」の形で挿入していましたが、今回、ここで言及するのは、フーコーがそれを明確に(線で抹消するという形で)破棄しているからです。つまり、他のノートにだけ残されている情報――例えば、時間の関係で割愛されたものなどとは、違うということです。
 真理のもう一つ(⑤になり得た)意味として、「アレーテースはまた、反映、像、影、模倣、外観でしかないものとも対立する。自らの本質に適合するもの、同一的なものは、アレーテースである。」また、真の生についてそれに該当するものとして、「アレーテース・ビオスとは、自らがそれでないところのものの外観を自らに与えることのない生のことである。それは、自分のものでない形態を模倣することはしない。真の生は、自らのエートスを容易にそれと認めさせるような(本質との合致があるような)生なのだ。」
 内容として、部分的には①〜④に吸収されているニュアンスも見られますが、決定的なのは「本質」という言葉でしょう。それを、フーコーは真、あるいは真の生に対して、明確に採用しなかったということです。その理由は、もちろん分かりません。本質という言葉を使わなくとも、①〜④で十分、概念把握できていると考えたのかもしれません。あるいは、本質という言葉を使うことが適切ではないと考えたのかもしれません。
 私は、本質……(人間の)本性といった、そういうアプローチそのものが、今回のテーマである「真なること」にとって不適切だから、だろうと思います。もちろん、プラトンにおいてもその種のアプローチはあるし、それはフーコーも知っています。その上で、破棄している、ということを少なくともおさえておきましょう。


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