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【本の感想03】『コンビニ人間』 / 村田沙耶香

普通という言葉は2種類の意味で使われることがあると思う。ひとつは、珍しくない・ありふれたという意味だ。もうひとつは、そうあるべきだ・そうでなくてはならないという意味で、押しつけがましさを多く含んでる。この本は、後者の意味の「普通」にしばられた女性の物語だ。
人・物・生き物などにまったく執着を持たない性格が原因で小さいころから差別されてきた主人公は、成長するにつれて、他人の言動や持ち物をコピーすることで周りになじむことを覚える。このコピーの能力は、彼女が何気なく始めたコンビニバイトの仕事でこれ以上なく活かされることになる。なぜならコンビニは、個性やランダム性を排し店員全員に決められた作業のみを求める場所だからだ(少なくとも作中ではそういう場所とされてる)。
現代の日本というあまりに限られた尺度で「普通」でないと判断された人は、差別をうけたり常に説明を求められたり間違った理解で勝手にあわれがられたりする。こんな圧力に付き合わされていたら、イヤでも「普通」に順応していかざるをえない。
本作はさらに、性・結婚・出産に関する圧力にもスポットをあてる。狭いコミュニティでの盛り上がりを優先して人をぶしつけにも品定めしたり、自分の選択を肯定したいがために人にも同じ選択を強要したりする登場人物には、心底ウンザリさせられた。
しかし主人公の最も辛いところは、家族すら自分を正しく理解しようとしてくれなかったところじゃないだろうか。主人公に寄り添ってるように見える妹も、姉の個性をあくまで「治す」ものとしか認識していない。家族という関係の特殊性もあるが、この点には読者の身ながら絶望してしまった。
「普通」の維持と強化がくりかえされる社会からおさらばしたい欲がかきたてられる本書。なんとか圧力をいなしながら、自分をなるべく活かせる場所でサバイブしていきたいと強く思わされた。(ついでに言うと、この本の解説で初めて中村文則を知った。その点でもとても読んでよかった。)

https://booklog.jp/users/02c301c/archives/1/4167911302

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