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【本の感想10】A DAY IN THE LIFE 7都市・7人の作家が描く、新型コロナウイルス・パンデミック下での、いつもの街の物語。 / 要々舎(発行)

パンデミック下で生みだされた漫画たちのアンソロジー。作品を寄せた7人の作家さんたちは、それぞれ別の国で暮らしている(タイ・台湾・シンガポール・スウェーデン・ドイツ・イタリア・日本)。絵柄や表現だけでなく、漫画の形式まですべてがばらばらだ。

もともと香山哲さんの漫画に惹かれて購入したんだけど、読み始めてみると、このアンソロジー自体に、この「ばらばらさ」自体の魅力に気付いた。レタスが食べたくてサラダを買ったけど、いつの間にか玉ねぎの香り・トマトの酸味・クルトンの食感を楽しんでたという感じ。知らない人が、身近でない土地で、各々の生活や思考を続けていて、それを記録している。そのこと自体が自分を落ち着かせてくれる。

お気に入りは、ジュリア・ナシメントさんの"3 Seconds of Happiness"と、シルヴィア・ヴァンニさんの"Grow"の二本だ。ジュリアさんはスウェーデンに住む作家さんで、日記形式の漫画を寄せている。昨年末まで国がマスクに反対していたスウェーデンで、奇異の目で見られながら感染対策をして暮らすのは、どれだけ難しいことだっただろうか。一方、ジュリアさんとパートナーさんのひょうきんさに、こちらが救われる気持ちにもなった。
イタリアに住むシルヴィアさんの漫画は、うってかわってエッセイ形式だ。家で過ごす中で、自身の心を納得いく方向に「育てて」いく方法を見つけたシルヴィアさんの心の中が描かれてる。ポップな絵柄とさわやかな描写はもちろん、自身の扱い方を明快な言葉でとらえる彼女の思考に、とても励まされた。

そして香山哲さんの漫画からは、今の自分が欲している様々なものを(勝手に)受け取った。食べること・体を動かすこと・寝ることが、自分の思考や充足感にどう影響していて、その逆もどう影響しているかを考えて過ごす。毎日の営みの中に自分の裁量を増やしていこうとする、小規模ながらも実験的な生活。自分は最近忙しいこともあって、そういった過ごし方に憧れさえ感じた。あと何より犬と遊んでみたい!

一冊のアンソロジーによって7人の作家がつながり、読者である自分はそのつながりに活力をもらった。自分は絵は描けないけど、いつかこういう連帯に参加する側になってみたいと、ぼんやり思った。

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