未来共創型資本について

22年間VC勤務を通じてスタートアップの世界にずっといた。

投資したスタートアップ経営者との会食はいつもエキサイティングで、どうすれば世界を変えられるか、目先の資金繰りだけではなく仲間や家族との関係と事業成長のバランスに苦労しながら、それでも前を向いて自らを奮い立たせながら頑張る起業家に、いつも尊敬と憧れの眼差しを向けていた。

また、上場企業経営者同士での会食も、短期的な目線でプレッシャーをかけてくる株主と、長期的な視点でステイクスホルダーと関係を築きながら事業を作っていくバランスに苦慮しながら、オーナーシップの有無に関わらず「どう企業価値を上げていくか」について様々なチャレンジや実際に起こった出来事をシェアし切磋琢磨する場が非常に有意義だった。

一方で、VCから投資を受けておらず、且つ上場していないがしっかり利益を出している企業の経営者と会食に行くと、若干のスタートアップへの僻みとともに話題は大体次の2点になる。
一つ目が、銀行の頭取との交友関係自慢と支店長へのダメ出し
二つ目が、節税&相続税対策

あれ?おかしいぞ。企業経営者がみな自社の企業価値を1円でも上げようと頑張っているんじゃないんだ。
良く考えてみるとVCから投資を受けている会社と上場会社は足しても2万社未満。つまり99%の企業経営者は企業価値を下げることに腐心している。
そんなことで日本が良くなるわけがない。

でも、未上場企業の経営者も、自社の持続可能性を高めることについてはみんな頑張っている。どうやって従業員の満足度を高めようか、廃業しそうな取引先をどうやって続けてもらうか、次の収益の柱をどう作ろうか、etc
持続可能性を高めることと、企業価値を高めることが方法論として一致していないというのが一番の問題なのではないか。

ではどうすれば企業の価値と持続可能性を同時に高めることができるのか?

企業の持続可能性を高めるためには、顧客や従業員、取引先、その企業が所属する地域の人々といったステークスホルダーから愛され、ステークスホルダーが主体的にその企業の発展のために行動を行うのが理想である。
であるとするならば、そのステークスホルダーが企業価値を高めることにインセンティブを持つ構造を作ることができれば、企業の価値と持続可能性を同時に高めることができるのではないか?

ここでエクイティの出番である。
冒頭申し上げたが、私はエクイティの世界に22年いて、エクイティはその発行体とエクイティホルダーとの間で強固なWIN-WIN関係を構築できるツールだと思っている。
つまり、企業のステークスホルダーがエクイティホルダーになることで、企業価値の向上がステークスホルダーの利益に直結し、ステークスホルダーが主体的に企業価値を(長期的に)上げていく行動がとれるのではないか。

一方で、企業経営者にとって株主が分散するのは大きなリスクであるのも事実である。
私自身自社の株式を保有していないことで、上場会社の経営から強制退出させられた経験を持つため、その重要性を人一倍感じている。
基本的に上場会社は普通株しか発行できないが、上場していなければ自由に議決権や財産分配権等の権利を設計して発行することが可能である。
勘の鋭い方はもうお気付きだと思うが、株式をうまく設計することで、適度なガバナンスを効かせながらステークスホルダーをエクイティホルダーに変え、企業価値と持続可能性を同時に高められる構造を作ることが可能になると考えている。

具体的には、ステークスホルダーが保有する株式を、
①無議決権
②会社が株主に対して、同じく株主が会社に対して買取請求できる株価を同額とする
③②の株価は過去〇年間の業績に連動する
という設計をしてみるとどうなるか。

この株式を持ったステークスホルダーは、会社の業績が上がるほど株価も上がるので、業績が良くなるように行動する。
企業経営者は、会社の業績を上げてくれるステークスホルダーに一人でも多く株主になってもらいたいと考え、逆に会社にマイナスの利益をもたらすような株主からは株式を買い取るという行動をとる。
また、期末に節税をするよりも、一円でも多く利益を上げたほうが(会社の業績向上に寄与する)株主のモチベーションを高められるので、企業価値をわざと下げるといった行動はとらない。

これが私が考える未来共創型資本のあり方である。
上記のように設計した株式を「E2C」(Exit to Comminity)と名付け、未上場企業がE2Cを発行することが選択肢の一つとして当たり前になる世界感が実現されれば、全ての企業経営者が自社の企業価値を上げるために努力し、また一方で企業価値を上げるのは経営者だけの仕事ではなくステークスホルダーの役割となり、必然的に経営における経営者の依存度も下がることで事業承継も進みやすくなる。
日本の競争力と魅力を高め、持続可能な企業と社会が増えていく、そんな世の中にしていきたい。


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