山口智子さんの「子供産まない」発言を聞いて苦々しく思う事

ちょっと前の話だが、女優の山口智子さんが女性誌で「子供を産んで育てる人生を望まない」と語ったとネットで話題になっていた。僕はそれを聞いてとても苦々しく思った。なぜかというと、多数派が勝利宣言を出したような気がしたので。

山口さんの記事が載った雑誌(FRaU)は買って読んでないが、ネットには発言の主だったところがほぼ転載されているので、ソース確認は別にしていません。それに僕自身は、山口さんの考えに肯定的でも否定的でもない。オピニオンリーダーでもない、昔有名だった女優さんの一人にすぎないからだ。

ただ彼女の発言は「言いにくいのによく言ってくれました」「(子供を産まないという)少数派の女性の意見を代弁してくれた」などと称賛されているようで、その称賛している人たちを僕は苦々しく思っています。

今回の山口さんの発言は「女性なら当然選択するであろう出産・育児を拒絶した、とても少数派の意見」の代表として取り上げられている感が強いが、現実には少数派ではなく、「出産も育児もしない」という女性はすでに多数派であると僕は考えている。

残念ながら、「子供を産んだ女性と産んだことのない女性のどちらが多いか」をデータ化した調査はないが、内閣府発表のデータによると、2010年の調査で30-35歳の女性の未婚率が34.5%となっている。2015年のデータはまだ発表されていないが上昇はしても下がることはないだろう。また平成25年の合計特殊出生率が1.43であること、35歳を超えると出産の可能性が下がることや結婚せずに出産する女性が多数派ではないことを考えると、日本に老人ばかりが増えていくように出産も育児もしない女性が年々増加していると考えても、不思議ではない。

もちろん、調査の分母を「有史以前からの女性総数」とすると、子供を産まない道を選択した女性というのは少数派なのだろう。でも「現在生きている女性」を分母にすると今後50年では確実に多数派となる。山口さんの発言にやんやと喝采を浴びせる女性の声が大きいのは、多数派の声は必然的に大きいという理由に過ぎない。たぶん今後は女性雑誌とかでも「産まないでキレイになる」「産んだら人生の負け犬」とかの特集がされるのかもしれない。しかも話題になってたくさん売れてシリーズ化されるとかね。

そして僕が苦々しく思う理由の一つが、「子供を産まない・育てない」と選択した女性が多数派となった社会では、教育予算・児童福祉などが削減される可能性がとても高いことが予想されるからだ。これは要するに「18歳選挙権問題」と非常によく似ている。

不勉強ながら数年前まで僕は、「なぜ18歳に選挙権を持たせる必要があるのか?」という問いに答えられなかった。簡単にいうと人口ピラミッドの中で若者より老人が増えてしまって老人たちが優遇される政策をアピールする政治家が選挙で選ばれるようになり(老人=多数派なので)、どう頑張っても若者の声が選挙で届かなくなることを解消するためなんだよね。若者の人口比率を急に増やすことはできないので、年齢を繰り下げて選挙権を持つ若者を増やしたわけだ。

限られた財源で自分たちの老後を優先させるには、どこからか引きはがしてくる必要がある。英国のサッチャー首相が財政再建のためにやったことがまさにそれで、教育予算を大幅に削減して露骨な富裕層優遇措置を取ったのである。

僕の考えでは、「子供を産まない・育てない」ことを選択した女性は「子供を育てる社会」に基本的に不寛容だと思われる。だって自分には全く関係がないからね。独身税を取って児童福祉や教育予算に回す…なんてことを政治家が言い出したら、大反対するだろう。幼稚園や保育所の建設にも大反対だし、また年金を減らして高齢者医療費の負担率をアップして、少子化対策に予算をまわすにも大反対だ。大反対というのは、要するに自分たちの気持ちを代弁してくれる、見ていてスカッとする候補者を選ぶ、ということですね。「有権者はそんな馬鹿なことをしない」と思う人は、アメリカの共和党党員がトランプ氏を多数支持している現実を受け入れましょう。

ネットニュースに流れている記事では、山口智子さんは『「世のため人のため」などではなく「自分のため」に生きていると、当然のように言い切る』とあって、この発言の真意は僕にはよく分からない。でも山口智子さんの記事に共感する非婚女性が、「そうだよね、少子化とか日本が滅びるとか関係ないよね。『世のため』なんか知ったことじゃないから、とりあえず近くの保育園建設計画には反対しよう!子供の声が聞こえただけでムカつく気持ちは、もう隠さなくていいんだ。堂々と反対しよう!」なんて短絡的になられても困る。いやこれはもう本当に「困る」しかできない状況で、選挙になったら多数派には勝てないからね。

僕のせめてもの希望としては、すでに多数派となった「子供を産まない・育てない」派が、近い将来「子供を産んで育てる」派を虐待しないことだ。それこそ18歳選挙権ではないが、「子育てママ選挙権」として「12歳未満の子供を持つ母親は子供の数だけ選挙権を追加できる」ぐらいにしないと、多数派との対決で同じ土俵に立てないのではないか、と僕は思います。


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