見出し画像

【1日1曲コラム】Vol.1 記憶を手繰り“赦し”を祈る歌姫の願い【志方あきこ/Amnesia】

志方あきこ「Amnesia」

「七色の声を持つ歌姫」というフレーズは陳腐になるほどあらゆるアーティストに使われているが、志方あきこほどこのフレーズが似合う歌手はいないと思う。
教会旋法を多用した幻想的で壮大な楽曲、俗っぽさが薄く妖精のようなアーティストイメージ、広音域かつ音域によってカラーが変わる神秘的な歌声、極端な多重録音、美しい言葉だけを紡いだ歌詞、透き通った声質。そのどれもが「歌姫」と呼ぶに相応しく、何度聞いても「ああ、やっぱり志方さんは良いなあ」と惚れ惚れするところである。

「Amnesia」はアルバム『Harmonia』(2009)収録の耽美なバラード。どこか淡々として微睡むような“抑圧された”歌い出しのメロディから、サビで一気に突き抜けて輝きと共に花開く構成は何度聞いても圧巻。
「舞い降りてくる 光の雨に」という歌詞の所で音域が一気に上がり、歌詞の通り“舞い降りて”くる(旋律が下降していく)メロディを決然と歌う場面はいつ聴いても鳥肌モノだ。

「はりつめてゆく私の罪」「すべて赦され溶けてゆきたい」など意味深な歌詞に注目されがちな同曲だが、実はトラックメイクが素晴らしい。
特にピアノの使い方などは絶品で、霧に包まれた森に差す木漏れ日が葉末の雫に当たって乱反射しているかのように遊びまわっている。

随所で聞こえる笛っぽい音はオカリナ。この楽器、素朴なイメージの割にめちゃくちゃ難しかったりするのだが、日本を代表する奏者・宗次郎が担当した同曲のオカリナは素材感がありつつ透き通って抜けが良く、口笛をも思われる。
よく聞けばオカリナのフレーズ感とヴォーカルのフレーズ感が微妙に違っているのだが、それがまた「記憶の中のメロディ」みたいでオツなのである。

ものすごい余談だが、この曲は私が小学生3年生くらいの頃、初めて好きになった「音楽」でもある。当時、同曲を使用した『からくりサーカス』の神MADがニコニコ動画にあって、何度も聞いては歌詞をA4のコピー用紙に書き写した思い出。
音楽ライターという存在すら知らなかったあの頃、父のお古のWindows XPは動作がクソ重く、動画を流しながらメモ帳を開けなかった。そんな思い出が蘇って懐かしくなる曲だ。

ところで、志方あきこはネットでの活動歴がとても長い割に(初音ミクより前から活動してるよね)、YouTube公式アカウントに3つしか動画が無かったりする。しかも最新動画は6年前。
一応最近作られた公式っぽいのもあるのだが、それも動画数は同じような感じ。「この曲、めっちゃ志方あきこっぽい!(実際は志方あきこではない)」という理由だけでTwitterトレンド入りするほどネットシーンで有名な歌手だけに、そのあたり全然進出してないのは意外だが、MVが極端に少ないアーティストでもあるので、仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれない。

記事を気に入っていただけましたら、こちらから安藤にCD代やごはん代を奢れます。よろしければよろしくお願いします。