見出し画像

【中辛批評】アニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』、手放しには褒められないがファン的には100億万点

アニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』見てまいりました。良かった。
もう待望も待望、小学生の頃からずっと待ち望んでいたアニメ化ということで、「クイーンとジョーカーが動いた!100億万点!!」なことは確かであり、ぶっちゃけ冒頭のジョーカーが鍛錬してるシーンで胸がいっぱいになって泣いたのですが、手放しに称賛するのもなんだかなあと思ったので、批評文をしたためたいと思います。

なお、この批判はあくまで「満足度的には100点、胸がいっぱいです本当にありがとうございました」ということを前提としたものとなっており、筆者は重度のアニメオタクですが専門家や業界人ではないことに留意してください。
また、ネタバレの有無や度合いにかかわらず、本記事は鑑賞後に読むことを推奨します。
何卒よろしくお願い申し上げます。

1.キャラデザ・作画・美術について

アニメ本編の作画については、「“想像以上に”良かった」というのが最も素直な感想です。キービジュアル発表当時はキャラデザがやや大味な印象で、かつ予告編では胸から上のカットが多かったため、正直かなり心配していました。

しかし、本編では「“寄り”が多すぎる!」なんてことはなく、大きく崩れた所もナシ。ヌルヌル動く神作画……とは言えないものの、動く所は動くし終始安定した作画でクセも無く、キメの場面のクイーンは惚れ惚れするほど美しかったです。

一方、画面全体の「描き込み不足」は気になる所。2022年の劇場公開作品としては画面の構成要素が少なめで、色彩もつるりとして、原作イラストの厚塗り感や大人っぽさが薄く、逆にホビーアニメ感が出ているのが気になりました。

また、背景美術も要素が少なく、「小学生の頃にイメージした映像そのもの」ではあったものの、「小学生の想像の域を出ない」といえばそれまでというか。全体として「原作の児童文学らしくシンプルな文体をそのまま画面に描き出した」というイメージで、「アニメーションならではの発見や新鮮な感動」「映像化されたことにより強化される要素」「画面の生活感」は少なく感じます。

サーカスの描写についても、団員たちの芸があっさりしすぎていたり、映像的な見せ場のはずの空中ブランコがサラッと終わってしまったりと、「アニメーションでサーカスを描写する魅力」が薄かったことは残念でした。

怪盗クイーンシリーズの大きな魅力は、登場人物が様々な場所を旅して、小学生には想像もつかない豪華絢爛な世界があることを教える冒険活劇の部分。第2弾では雰囲気作りの強化を期待したく思います。

2.演出について

演出面で特に感動したのは、懸念点でもあったジョーカーの「邪眼」の表現です。中二病っぽくならずに迫力と独創性があり、思わず「おお……これは動物もビビるわ……」と納得しました。

また、RDまわりも素晴らしい。仮想世界に構築した美しい庭で寛ぐ姿の描写は鳥肌モノで、原作ではもう少し後に登場した擬人化姿がしっかり出てくるのもテンションが上がります。

様々なキャラクターのチラ見せも最高でした。夢水清志郎や倉木博士、探偵卿に三つ子たち。こういった描写があると、鑑賞者は自然とちょっとした場面でもモブの顔をじっくり見てしまいます。ファンサービス100点中500点でしょこれ。

「落としてほしくない要素の拾い方」も良く、クールな顔してどうぶつスリッパに可愛いパジャマとナイトキャップ姿のジョーカーくんがしっかり描かれたのが嬉しい所でした。伏線となる「団長の足」についても、執拗に足のアップが描かれ、初見の人にも親切な感じ。そしてどのキャラクターも可愛く描写されていました。

ただ、物語の山場がわかりづらく、ストーリーが淡々と過ぎていく印象もあります。元々の物語が面白いからサラッと流されても面白いのですが、テンポの変化が弱く盛り上がりに欠け、良くも悪くも「スタートからゴールまで同じテンションで駆け抜けた」、つまり単調な感じがしました。

その他、アニメーションとしての全体的な演出力、つまり構図の工夫や絵コンテ的な面白さもやや弱く、同程度の作画でも演出でクオリティを数段上げている作品が数多くあることを思うと、構図や間の取り方が惜しいと感じます。

3.声優・音楽について

本職声優ではない方が主演を務めるということで心配が無いわけではなかったのですが、そこは流石の宝塚。めちゃくちゃ合うし、「クイーンは大げさで芝居がかっていたほうが合う」と思っていたところを見事に突いています。舞台的な発声特徴(無声音をしっかり発声している等)はありますが、相当な声オタクしか気にならないでしょう。フランス語の発音が絶品なんだ。

そのほか、声優は完璧といっていいキャスティングだったと思います。これだけ理想的に集まったキャスト、この1作で解散はあまりに勿体ない。仮にアニメとして続きが製作されなくても、この声優陣および音響監督で朗読劇をぜひ何卒……。

主題歌は最高でした。1990年代のアニソンっぽさを狙ったのか、クラシカルで大げさな感じがいかにも“怪盗活劇”っぽくて、この作詞・作曲陣を選択した狙いがよく出ていると感じます。

4.シナリオについて

はやみねかおるの原作が悪いものになるわけがなし。セリフや地の文を覚えているくらいのファンですが、シナリオの再編集についての不満は一切ありません。ほぼ完璧なんじゃないか。1時間という尺縛りの中では、これ以上に上手く編集することはできないと思います。

欲を言えば、あと15分ほどあれば諸々の描写をもっと詰められたかなと感じましたが、それは100点のものに150点を望むようなもの。要素の取捨選択、伏線の作り方も理想的でした。

「なぜそこを略した?」という要素は、無いわけではありません。しかしそれは「あったほうが物語に深みが増す」「大人が読んだときに感心する」部分であり、物語の進行的に必須ではないのかなと思います。

5.総評

『怪盗クイーン』は青い鳥文庫の中でもアニメ化の期待値が高い作品で、はやみねかおる作品の中では最もアニメ映えすると言われていました。だからこそ、この批判は私が期待し過ぎていた面が大きいです。

今回、制作側は本作の対象年齢を低く見積もりすぎたようにも思います。青い鳥文庫作品の多くは小学校中学年程度が対象ですが、怪盗クイーンは成人後も追い続ける人が多いシリーズ。小学生の頃は背伸びして読み、高校生くらいになって初めてネタの真意が理解できるような作品です。

実際、劇場で鑑賞した際の客層は20代中盤が中心。50代くらいの方もいて、平日夕方ということもあり、小~中学生くらいの子どもはいませんでした。公開規模50館程度というのも、首都圏以外で暮らす子どもが鑑賞するには厳しいと思います。

そう考えると、美術・演出面に“2005年頃の夕方ホビーアニメ的な感じ”が出てしまった部分は本当に惜しい。いっそ大人向けに振り切って、芸術的な演出でシリーズ特有のダークさを前面に出しつつ制作し、オタクの周回鑑賞を狙い撃ちしたほうが良かったのではと思います。今回のアニメ化は、ファンの一番下の年齢層に合わせた結果、100点中200点を出せる題材に対し、100点中80点でまとまってしまったイメージでした。

ただ、フラットな目で見ると、本作は傑作とは言い難いくも、どんな人にもオススメできる、ファンサービス旺盛な意欲作ということは間違いありません。そもそも怪盗クイーンはオタクのためのものではなく、赤い夢を見る子どものためのもののはず。今後の展開に期待したく思います。


記事を気に入っていただけましたら、こちらから安藤にCD代やごはん代を奢れます。よろしければよろしくお願いします。