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シンプル・マインズ「ドント・ユー?」をめぐる話

シンプル・マインズ初の全米1位ナンバー

1985年の映画「ブレックファスト・クラブ」の主題歌となった「Don't You?」。シンプル・マインズにとっては待望のアメリカでのヒット・シングルになり、全米1位・年間チャート16位を記録。それまでの彼らは82年のアルバム"New Gold Dream”、84年の"Sparkle in the Rain"でイギリスを制覇したものの、アメリカでは両アルバムは60位台、シングルに至ってはそれまで一度もチャートインしていなかったわけで、彼らにとってはキャリアを一変させる曲でした。

断られ続けたいわくつきの曲

さて、この"Don't You?"ですが、誕生までにはなかなか難産だったようで、80年代当時はこういう話は聞いてなかったので非常に興味深い。個人的にはあまり良さが分からなかった曲で、なんでここまで売れたのか?とも思いましたし、後追いで彼らのアルバムを聴いてみても、彼らの個性に合っていないと感じました。
それまでの彼らのサウンドはいかにもイギリス的な哀愁がある一方、"Sparkle in the Rain"でのスティーヴ・リリーホワイトによるプロデュースも効いてシャープなダイナミズムのあるものでした。それに比べると"Don't You?"はいかにもアメリカっぽい。
作曲はビリー・アイドルのプロデュースでも知られるキース・フォーシー。この人はイギリス人ですが、ビリーの"Rebel Yell"でもわかるようにシンセとギターサウンドを上手くミックスし、イギリスっぽさを崩さずに上手くアメリカに対応したサウンドを生み出す人なんで、一見するとシンプル・マインズとも合いそうなんですが、この曲についてはそこまでフィットしてないかなと。
実際、シンプル・マインズのジム・カーも同じように思っていたのか、ずっとこの曲の録音は断り続けていたそう。

ジム・カーに断られたキースは、ブライアン・フェリーに録音させようとするも、当時フェリーはアルバム"Boys and Girls"の録音に入っており、断られました。後にフェリーは「僕にピッタリの曲だとは思ったが、タイミングが悪かった。シンプル・マインズはいいヴァージョンを作ったよ」とコメント。
でも個人的にはフェリーにもこの曲は合ってないように思います。
その後、さらにキースはビリー・アイドルにも断られたそう。確かに"Eyes without a Face"や"Fresh for Fantasy"あたりも通じる少しダークな感じもある"Don't You?"はビリーに合ってたかも。
一方、レコード会社であるA&Mはコリー・ハートを推薦するも(なぜ?)今度はキースがイメージが違うと断り、フィクスのサイ・カーニンには断られたと。どんだけ嫌われてんだこの曲と言いたくなりますが、正直そこまでの曲でもないと私も思うわけで。

バンド・マネジャーのブルース・フィンドレーはこの曲のポテンシャルを信じ、絶対これをやればアメリカで成功するのに…と説得をしていたもののバンドは断り続けたそう。
結局ジム・カーを説得したのは当時の奥様、プリテンダーズのクリッシー・ハインドで、「いい曲なんだからやればいいじゃん」と言われて渋々承諾したそう。
結果的にはマネジャーとクリッシーが正しかったわけで、本当に彼らに近い人たちからすればこの曲は「あり」と感じたのでしょうね。

"Alive and Kicking"での変化

https://www.youtube.com/watch?v=ljIQo1OHkTI

"Don't You?"が大ヒットとなった85年の夏、彼らはライヴ・エイドのアメリカ・ステージに出演。そして秋にはシングル"Alive and Kicking"を発表。
彼らにとっては続くヒットが出るかどうかの勝負だったはず。そのシングルは、"Don't You?"とそれまでの彼らの持ち味を上手くミックスさせたものになっていました。
アルバム"Once Upon a Time"からは他に"Sanctify Yourself"や"All The Things She Said"がシングルカットされましたが、こちらはどちらかといえば従来の彼らの路線に近いイメージ。ただアメリカ人プロデューサー、ジミー・アイオヴァンとボブ・クリアマウンテンの力もあってか、アルバム全体はアメリカ市場にフィットさせたような感じでした。
シングルは全てトップ30入り、イギリスは全てトップ10入り。アルバムはイギリス1位、アメリカ10位と成功作に。彼ら同様、アメリカに視点を移したU2と当時は比較されていたように思います。
しかしやはりバンドはこのアメリカン路線は違うと感じたのか、次のアルバム"Street Fighting Years"はイギリス人トレヴァー・ホーンとスティーヴ・リプトンがプロデュース。イギリスでは1位を記録するものの、アメリカは70位と惨敗。シンプル・マインズは短いアメリカでの成功を終えてしまいました。
つくづく難しいものだなと思うわけですが、彼らはその後もイギリスでは人気を誇り、現時点での最新作アルバム"Direction of the Heart"も4位に。


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