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妹がいない世界。

妹がこの世から消えた。 
しかも、自らこの世を去った。

妹が生まれてから15年間、
ずっと一緒に過ごしてきた。

それがずっと続いていくものだと
当たり前に思っていた。

でも、
その当たり前は一瞬にして崩れ去った。

そして、
もう二度と会うことはない。

自分を責めても、
誰かを責めても、
何かを責めても、
その事実はどうすることもできない。

妹は私のことをどう思っていたんだろう。


きっと嫌いだっただろう。

こんなに身近にいるのに、
こんなに苦しんでいることもわかってくれない、
ひどい姉だと思っていただろう。

違う人が妹の姉だったら、
妹は自殺してなかったんじゃないか。

そんなことをずっと考えていた。


妹はなんで死んだのか。
妹は遺書を残していなかった。


いくら考えても、
妹に聞かない限り、
わからないことばかり。

でも、考えずにはいられない。

ふと気を緩めると
恐ろしいほどの悲しみと絶望が襲ってくる。

それに飲み込まれたら、
もう二度と抜け出せないような気がして、
もう二度と立ち直れなくなる気がして、
立ち止まってはいられなかった。


それに、私は長女だったからか、
弟もまだ小さかったし、
両親の悲しみの方が
おそらく
私には想像もできないものだと感じていたから、

私は気をしっかりしてなきゃと思っていた。

できるだけ早く元に戻ろうと、
普通の生活をしようと、
気をふるいただしていた。


いざ、今まで通りの大学生に戻ろうとすると、

最初の難関になったのは、電車。

大学に行くまでには
電車に乗らなければいかなかった。

駅のホーム、線路、電車の音。

電車が前に来るたびに、
ものすごい恐怖と悲しみが襲ってきた。

人身事故で電車が遅れる

そのアナウンスを聞くたびに、
とてつもないショックが襲ってきた。

そして、

「人身事故とか迷惑だよね(笑)」

何も知らない友人の何気ない一言に

どんな顔をしたらいいのか、
どんな言葉を発したらいいのか、

涙をこらえるのが精いっぱいだった。
 

テレビをつければ、
自殺がネタになっているお笑いのコント、
みんなが楽しそうに笑っている。

ドラマや映画では平然と人が自殺する。


「自殺は弱い人がすることだ」

そんな言葉があちこちから聞こえてくる。

世の中ってこんなにも残酷だったけ?

妹を知っている友人から、
「妹さん元気?」なんて聞かれても、
「自殺したんだ」とは言えず。

「元気なんじゃない?」
亡くなったことさえ言えない時もあった。


始めて知り合った人に、
「何人兄弟なの?」なんて聞かれると、
「弟と二人。」
まるで、妹が存在しなかったかのように
答えなければいけない現実が辛すぎた。


今まで別に何とも思ってなかった
ささいな出来事が、
凶器のように自分に突き刺さる毎日。


そして、
家に帰れば、
妹がいなくても今まで通り回っている世界から、
まるで別世界のようになってしまった家の中。


そのギャップがとてもつらかった。

だけど、
その時ふと思っていたのは、
私が今まで知らなかっただけで、
こうやって生きていた人は
たくさんいたということ。

むしろ、
もっと私が想像もつかないような状況で
生きている人がいること。

日常のささいなことで、
とても傷つきながら
生きている人がいるということ。


自分が何気なくしたこと、
言った言葉に
とても傷ついてる人がいるんだってこと。

一見、
普通に生活しているように見えても、
自分には想像もつかないような
とてつもない感情を抱えて生きている人が
いるんだってこと。

今まで知らなかった世界。
今まで見えていなかった世界。

そんな世界を見させられたような感じだった。

だけど、
そんな世界がとてつもなく虚しかった。

なんで、
こんな世界が存在しているんだろう。

なんで、
私は生きているんだろう。


妹が自殺したのに。


妹はもうどこにもいない。
どこを探してもいない。
妹という存在は消えてしまった。

そんなことを考えると、
頭の中が真っ暗になって
シャットダウンされたような
とてつもない絶望感に支配された。


でも、
もしそうではないのだとしたら。


私は幽霊が見えるわけでもないし、
死んだこともないから、
死んだらどうなるのかなんてわからない。


だけど、
もし死後の世界があるのなら。


そう考えると
自分の気持ちが少しだけ楽になった。


でも、
信じたくても、
目に見えない世界をそう簡単に信じることは
なかなかできなかった。

だけど、
ある時期に、
私は同じような夢をずっと見ていた。

それは

「妹が実は生きていたんだ」

っていう、とてもリアルな夢。  


わたしは何日も何日も同じ夢を見た。

そのたびに夢の中で泣きながら喜んで、
妹に寄り添った。

でも、朝起きると、
妹は死んだんだって思い出して、
ベッドの中で泣いた。

それを何日も何日も繰り返していた。

そのうち、
夢があまりにもリアルすぎて、
なんだか夢と現実の境がよくわからない
不思議な感覚になっていった。

そして、
ある日、
また同じ夢をみて、
朝目が覚めた時に、

ふと


「いや、、
 妹は死んでないんだ、

 ちゃんと私の中に生き続けてるんだ」


どっかで聞いたことのあるような
フレーズだったけど、

その言葉がスーッと私の中に入ってきた。

そして、

妹が去年のクリスマスに
マフラーを編んでくれた時、

私が「ありがとう!」と伝えたときに、

とっても嬉しそうに

「うん!」

と答えたあの時の妹の顔が急に浮かび上がった。


とーーっても嬉しくて、
愛でいっぱいに溢れる感情が
わーーっとでてきた。


涙が止まらなかった。

でも、
それが私にとって
まぎれもない事実なのだった。

それ以降、
あの夢は一度も見なくなった。

もしかしたら、
これは自分にしか
わからない感覚なのかもしれない。


でも、
きっと大切な人を亡くしたとき、
みんな似たような感覚を
もつものなのではないだろうか。


そうじゃないと、
私はとてもじゃないけど、
この世界を生きていたいなんて思えなかった。


妹がいない世界。

だけど、

私はこの世界を妹と一緒に生き続けていく。

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