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「人」になるということ


「人間の欲望は変わらない。これからも自己利益・営利追求の欲求はいっそう激しく展開してゆくだろう。歴史は人間のこざかしい『認識』などで律しうるものではない。それにもかかわらず変わることなく歴史に残るのは、『人』としての誠実さを尽くして生きかつ死んだ『人』の記憶と、それを追慕する中に蘇る人間像のみである。なんらかの形で、この追想を生かすのは今後に残されたわれわれの課題となる。」

 /『秋の思想』河原宏 著 (幻戯書房 2012年)P.10

「二十一世紀の課題は、現代文明の『物』と『金』一色の世界を脱出する唯心革命の達成、そのためにこそ歴史における『人』の発見が求められる。日本の歴史は、われわれの希求に十分に応えてくれるだろう。多分、われわれと歴史上の『人』との、この『一期一会』的出会いにこの国の未来もかかっている。」

 /『秋の思想』河原宏 著 (幻戯書房 2012年)P.72

「問題の全体を巨視的・総合的にとらえるならば、その根本的な解決策は、過剰な営利精神の是正にある。そのような理解の下、コールリッジは、『俗人説教Ⅱ』の中で、いくつか具体的な対策案に言及している。(中略)要するに、各人が、それぞれの地位や立場に応じて、広義の『国家』のために、できることをすべきである。自分で行動できない場合には、資金を提供すればよい。癒すことができなければ、痛みを緩和すればよい。救うことができなければ慰めを与えればよい。『幸いなるかな汝ら、すべての水のほとりで種を蒔く者たちよ』という聖書の文句を引用しつつ、コールリッジは、ユートピア的な改革案を夢想するのではなく、各人ができることから問題解決に着手するという漸進的なプラグマティズムを説くのである。」

 /『保守とは何だろうか』中野剛志 著 (NHK出版新書 2013年)P.150

「最大遺物とは何であるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる、ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。これが本当の遺物ではないかと思う。(中略)もし今までのエライ人の事業をわれわれが考えてみますときに、あるいはエライ文学者の事業を考えてみますときに、その人の書いた本、その人の遺した事業はエライものでございますが、しかしその人の生涯に較べたときには、実に小さい遺物だろうと思います。パウロの書翰は実に有益な書翰でありますけれども、しかしこれをパウロの生涯に較べたときには価値のはなはだ少ないものではないかと思う。」

 /『後世への最大遺物・デンマルク国の話』内村鑑三著 (岩波文庫 1946年)P.54

「『死すべき者』としての人間を含め、生きる者すべてに対する哀れみと優しさの心、死者に対しては『生くべかりし者』とみなす祈念と哀傷の心を身につけたこの国の文化を形成してゆくことから始まるであろう。」

 /『秋の思想』河原宏 著 (幻戯書房 2012年)P.252




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