見出し画像

技術を世の中に提供するビジネス形態

先週、CPUの話を書きました。実は、このときにarmの話題も入れる予定だったんですが、ビジネス的な面で整理をしたいなと思い、整理しなおしてみました。

CPU業界におけるarmの特徴

CPUの製造に関係するメーカは、それぞれ異なる特徴を持っています。

  • Intel:設計から製造までのすべてを行う

  • AMD:設計を行い、製造を外部委託する

  • arm:設計しか行わず、商品も保有していない

  • TMSC:製造しか行わない

この中で、ビジネスモデルとして特徴的なのがarmとTMSCです。

armは工場を持たず、CPUの設計図の権利を販売する会社で、少し前にNVIDIAが買収を発表して話題となりましたが、取りやめになりました。このような企業を“ファブレス”と呼びます。

一方のTMSCは、工場で製造のみを行う企業で、AMDやappleの製品を作っています。現在、日本(熊本)に工場が建設中で2024年に稼働予定ある。このような企業を“ファウンドリ”と呼びます。今回はフォーカスしませんが、ファウンドリも強みを極めた1つの形だと思うので、カッコいいです!

https://www.arm.com/ja/architecture/cpuから引用

armの設計図は非常にたくさんの製品に利用されています。armのCPUの特徴は、なんといっても低消費電力です。そのためスマホなどの組み込み機器にピッタリなわけです。しかも、昨今はCO2排出量にも注目が集まっているため、低消費電力で高性能なサーバは企業価値を高めることにもつながります。それも相まって、AppleやスマホのQualcomm Snapdragonなど有名どころがアーキテクチャを利用しており、半導体シェアの4割程度を占めています。

HPC(High Performance Computing)分野でも、AWSが Gravitonというプロセッサをarmベースで開発して、リリースしています。Intelと比べてやや低価格で設定されているので、コストパフォーマンスがよくなっています。ぼくも使ってみたら、ガリガリ計算を回すときにはやはりIntelの方が速かったですが、用途によってはメリットがあると思いました。


ほかに設計できないの?と思ったりしますが、競合他社はほとんど存在していないので、それだけarmの技術力がすごかった、ということでしょう。ただ、NVIDIAとの買収騒動もあったりしたせいなのか、最近は「RISC-V」というフリーの仕様が使われだしているようです。フリーの仕様ということなので、半導体設計がどのようなものか見てみたいなぁと思ったりしています。

armのIPビジネス

armは、前述したとおりCPUの設計図のみを販売しています。具体的にはライセンス契約をして使用料として収益を得るビジネスモデルです。いわゆるIPビジネスです。他に真似できない知的財産(Intellectual Property)を持っていることが最大の強みな訳です。

簡単にですがarmの売り上げを調べてみたところ、2021年度で約3兆円で利益率が20%強とのことでした。これは、先行投資が含まれているので、実際の利益はもっと多いのかもしれませんが。ちなみに単純比較できる訳ではないですが、トヨタ自動車の売り上げは30兆円ありますが、利益率は12%程度でした。つまり、armがいかにコストがかからずに利益を上げているかがわかるかと思います。

https://www.arm.com/ja/company/news/2022/05/arm-delivers-record-revenues-and-record-profits-in-fy21から引用

技術を提供するビジネス

armはIPビジネスの成功事例だと思います。一方で、他社の追随を許さないような技術、armでいうところの設計図、を持つということはすごく大変なことです。でも技術を売りにする場合、すべてIPビジネスを目指せばいいか、というとそうでもないと思っています。ここからは個人的な意見が入っているので、色々コメントいただけるとありがたいです。

例えば、なにか技術的なことを提供する場合、大まかに以下のビジネス形態があり得るかなと思います。

  • 受託

    • 顧客から依頼を受けて技術を提供する、あるいは技術を用いた結果などを提供する。

  • 製造販売

    • 自社の技術をソフトウェアのようにモノとして製造し、販売する。

  • SaaS

    • 自社の技術をサービス化して、コトとして提供する。

それぞれメリットとデメリットがあると思います。例えば、受託は顧客のニーズに対して応えることが重要なファクターになります。それは技術面でも費用面でも当てはまるので、個別に仕様や費用を調整することでお互いがWin-Winの関係になることができます。また、受託の場合は、収支をそのプロジェクトのみで完結して考えることができることもメリットだと思います。一方で、顧客の予算に影響される面があるので、継続的なビジネスに弱いし、売り上げとして大きくスケールしにくいことがデメリットかなと思います。

一方で製造販売は、とある業界や分野でよく使われる商品となれば、安定的な収入が期待できると思います。そのためには、企画段階で市場に受け入れられる商品にできるかどうかが重要だと思います。デメリットとしては、市場のニーズへの対応の難しさがあると思います。初めはニーズに適合していたとしても、様々なニーズが出てくる中ですべてに対応していては、例えば最も解決したかったニーズがぶれてしまって、商品としての魅力がなくなってしまうこともある気がします。モノづくりという点で見れば、ブランド価値を高めて「この商品はこういう価値を提供できる」を極めていった形なのかなと感じています。

SaaSは、製造販売の一部とも言えますが、今回は分けて考えてみます。というのも、製造販売のデメリットへの対応がしやすい形の1つじゃないかと思っています。SaaSの場合は、製品というモノではなくサービスでの提供になるので、ニーズへの対応がしやすい気がしています。SaaSでの提供は、モノではなくて、コト、つまり体験の提供という一面もあるので、柔軟に色々変化できることがメリットじゃないかと思います。さらに、商品を作ることに比べると始めやすいという点もメリットだと思います。その半面で、現時点でも世界中で様々なSaaSがありますし、これからもどんどん増えていくと思うので、競争が激しいことがデメリットかなと思います。

個人的には、受託で技術力を蓄えつつ、最新動向を掴んだ上でSaaSで世の中に出していくのがいいのかなと思っています。そんな中でarmみたいにIPビジネスで勝負できる技術ができあがってくると最高だとは思うので、目指していきたいなとも思います。

いずれにしても、それぞれの特徴を理解した上で、どれか1つに絞るのではなく、組み合わせてビジネスができるといいんじゃないかなぁと思っています。


armに関しては、以下の記事を参考にさせていただきました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?