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「命令違反」が組織を伸ばす 菊澤研宗 著

さまざまなプロジェクトを回す上で合理性は常に意思決定の検討材料となる。合理的であることは経済性に優れていて、時間の捉え方がインスタントになった現代社会において非常に重要な要素だ。そうした時代においてそもそも合理性とは何なのかを別角度から見つめる1冊だった。

太平洋戦争における日本の敗戦を現代のビジネスでの教訓とする書籍は非常に多い。特に『失敗の本質』は太平洋戦争での敗因分析をもとにしたビジネスの名著として名高い。この本もそうしたニュアンスを持ちながら、行動経済学的な知見も交えて敗因について考察している。

この本が指し示すのは結論、人間とは「限定合理的」であるということだ。時折、ロジカルに俯瞰した時に明らかに合理性に欠けた行動を我々人間はとってしまう。これは明らかに合理性にかける行動なのに、当人にしてみると十分合理的であるといった事例が行動経済学によって見出せる。

人間というのは成功に向かって心理的価値(喜び)が高まっていく時、早々にしてその心理的価値は頭打ちし始める。つまり成功の喜びが長く続かないのが人間なのだ。逆に失敗状況にあるときは、僅かな成功だけで大きく心理的価値の向上を感じる。そしてそうした状況下では状況が失敗に向かえば向かうほど、その心理的影響は小さくなっていく。いわばマイナスの感情の頭打ちが発生する。こうなると成功し続けるまで続ける、やめ時を見失う、ギャンブルでよく見る光景だがこうした背景が存在する。これを行動経済学では「プロスペクト理論」と呼ぶ。

つまりプロスペクト理論によれば、負けがこんで諦めが悪くなるのも、当人に限れば一種の合理的な行動となる。まさしく「限定合理的」だと言える。

ここで重要なのは合理と非合理、個人と組織をトレードオフな関係とみなして、予め認識しておくことではないだろうか。人は無意識に自分にとって都合の良い「限定合理的」な行動を取るのだから、組織においてベクトルの異なる合理性が集まるリスクがある。しかし個人にフォーカスするとその合理性が各個人の行動の源泉となっているのも事実だ。こうした構造的なリスクをマネジメント側は予め想定しておく必要がある。

その対策としてやはり最も有効なのは「ビジョンの共有」に尽きる。ビジョンの共有の重要性についてもこの本から得られる気づきは大きい。この本ではタイトルにもあるように、良い命令違反とは何かについて述べている。その中で良い命令違反として定義づけられているのが、「正当性と効率性を一致させるような命令違反」だ。そして避けなければならない不合理としては、Ⅰ.正当性と効率性の不一致による不合理 Ⅱ.私的個別性と社会性の不一致が生み出す不合理が挙げられている。常々心がけているミクロとマクロ視点で組織を俯瞰する作業の重要性が改めて分かったような気がする。

ところで上記に示した正当性と効率性に関して、これも一言でまとめれば合理性と言い換えられるのではないか。合理性を因数分解した結果、導き出されたのが、正当性と効率性の不一致による不合理との発見のように思う。つまり合理性という言葉自体抽象的で、安易にその言葉を用いて理想的な形を指し示している恐れがあるということだ。そうした細かな言葉に対する認識のズレの積み重ねが最終的に組織を崩壊させていくと思う。孫子も言っていた「敵は内部にあり」はここからも読み取れるのだと改めて細やかなコミュニケーションが大事であると実感することができた。

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