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パラレルワールド

ぐるぐる弄んで周波数を合わせると、ラジオから聴こえる声が、きみと私の隙間を埋めてくれた。
すこし違っていてすこしおんなじ世界について、どこかの偉い人が話している。
「そんなものあるものか」
鼻で笑うきみは小さな子どもみたいだった。目に入れてしまいたい。
横で平然と座っている私が、実は携帯電話のバイブレーションみたいに小刻みに震えて隣の世界の私と入れ替わり続けているのをきみは知らないんだ。
だから私はこう答える。
「あると思えばあるよ」

しばらく前に母が脳みそを怪我して倒れ奇跡的に助かったあと、実際には“無かった”はずの記憶を何度も話してくれた。
あれはもしかして、本当はあの瞬間に私の世界の母は死んでしまっていて、隣の世界の母がお別れの準備をする時間を少しだけ与えてくれたのかもしれない。なんて思ったりしている。

「ねぇ、きみ」
今は確信。
「はやく諦めて“準備”してしまいなよ」
弾かれたようにこちらを向いたきみは、やっぱり、小さな子どもみたいだった。

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