コストを最小限にしてオンデマンドで出版する② コストを抑えたセルフ出版に舵を切る
アマゾンには「KDP セレクト」という販売システムがある。これは、キンドル出版した本を無料で読めるプログラムで、アマゾンとキンドルのキャンペーンによって、より多くの読者を獲得する可能性がある。他にも、期間限定などの限定キャンペーンに無料で登録したり、参加できる。
KDP セレクトに登録すると、キンドル出版した本は自動的に 「Kindle Unlimitedd (KU) 」(以降、キンドル アンリミテッドと表記する)に追加され、本の無料キャンペーンの対象になる。読者側のメリットは、キンドル アンリミテッドの購読料として月額料金(980円税込)を支払うと、定期購読商品の対象となっているKindle 本を好きな端末で、読み放題となる。
出版者(著者)側のメリットは、KDP セレクトに登録すると、高いロイヤリティが得られること。読者がキンドル アンリミテッドの本を利用すると、出版者(著者)に KDP セレクト グローバル基金の分配金が入金される。日本、インド、ブラジル、メキシコの読者に販売した額の70%がロイヤリティ(使用料。印税のようなもの)として支払われる。ただ、KDP セレクトに登録すると、アマゾン、キンドルストアでの独占販売となり、期間は90日間だが、以降自動更新され、更新している期間はアマゾン、キンドルストアでの独占販売が続く。
KDP セレクト グローバル基金は、全世界のキンドル アンリミテッドで稼いだ収益の合計額で、その月に読まれた全世界の全作品の合計既読ページ数で割り、それに、著者の作品の読まれたページ数を掛けることで報酬が算出される。基金の額は、キンドル出版のホームページの最初のページに表示されており、2023年7月時点の基金(収益金)は71億円。
KDP セレクト グローバル基金の金額は毎月変動しており、各国に分配される基金の割合は一定ではなく、為替レート、読者の読書行動、定期購読商品の現地価格など、多くの要因に基づいて変わる。
1ページ当りの毎月のロイヤリティー(KENPC: Kindle Edition Normalized Page Count)は0.4~0.5円程度。KENPは「Kindle Edition Normalized Pages」の頭文字を取ったもので、キンドル アンリミテッドで読まれたページ数のこと。
アマゾンは、Kindle 本のページ数をジャンルや端末、表示設定に関係なく計算するために、Kindle Edition Normalized Page Count (KENPC) という機能を開発している。KENPC は、標準の書式設定 (フォント、行の幅、行間など) に基づいて計算され、読者が読んだページ数を測定する。本の中の画像、表、グラフなど、テキスト以外の要素も KENPC に含まれる。不正防止のため、同じ読者が同じページを2度読んでも、カウントされない。
1ページ当りの毎月のロイヤリティーが0.4~0.5円とは、どういう意味なのか。自分の作品が100ページ読まれると、40~50円が入金されるということだ。著者が、1冊の本で1人の読者から獲得できる最大の既読ページ数は3000KENPCと規定されている。3001ページ以上の大作であっても、変動はあるものの、最大1500円程度の収益が上限となる。
2021年1月までは「Kindleオーナーライブラリー」というサービスが提供されており、Kindle端末を所有しているアマゾン ユーザーは、電子書籍を月に1冊無料で読めた。Kindle オーナーライブラリーで読まれたページ数もKDPセレクトグローバル基金に加算していたが、現在は行なわれていない。
不得手なことはプロに任せる
KDP セレクトに登録した場合のロイヤリティは70%で、登録しないときのロイヤリティは35%。KDP セレクトで選択できる販売価格は250~1250円だが、KDP セレクトに登録しない場合は99~2万円の幅で自由に根付けできる。
KDP セレクトでの販売を選択するかどうか、インターネットで情報発信している出版経験者の声に耳を傾けてみた。ロイヤリティが大きく、無料キャンペーン期間に読者が試し読みできるので、KDP セレクトを勧める人がほとんどだった。
「無料キャンペーンで読まれて、知名度が上がったとしても、おカネを払って本を買う行為の妨げになるのではないか」「ペーパーバック版の売上げにも影響が出るのでは」と思案したが、より多くの読者に気軽に読んでもらったほうがいい、と思い直し、KDP セレクトで販売することを決めた。
本作りの作業も進めていたが、キンドル出版での最大の課題がアマゾンにアップする表紙の画像作成と、ペーパーバックの表紙と裏表紙のデザインだ。ネット上には、セルフ出版のためのデザインソフトも紹介されている。
写真や素材を加工・編集し、文字を入れて簡単に表紙を作れるCanva(キャンバ)というソフトが人気のようだ。画像を処理したり、文字入れ、自由に描画できる機能が充実したGIMP(ギンプ)という画像編集ソフトを推奨する記事も読んだ。
しかし、プロのデザイナーに依頼したほうが、品質の高いものができるはずだと考えた。このnoteの記事を書くときも、「餅は餅屋」で、その道の専門家、プロに任せてほうがいいと実感する場面に直面した。
出版社で仕事をしていたとき、必ず校正者の世話になってきた。気が付かないミスや用字の統一ができていない場合など、問題を指摘してもらった。第三者のチェックを経ないで、文章を発表することは危険な行為と感じ、校正、校閲のプロを探すことにした。
個人のスキルを、必要としている人々とマッチングさせるサービスが活況を呈しており、こうした事業を主力とする上場企業も、続々と登場している。
「知識・スキル・経験」といった得意分野を、インターネットで売り買いできるスキルマーケットサービスの『ココナラ』運営しているのがココナラで、サービスカテゴリは450種類以上、サービス出品数は67万件に達する(2022年10月時点)。
仕事を受注したい個人と、外注したい企業とのマッチングプラットフォームの『ランサーズ』を運営するランサーズ。自らの知識や経験を『ビザスク』に登録し、企業や個人のビジネス課題に対して、スキルを提供するビザスク。個人と企業とつなぐ人材マッチングプラットフォーム事業を展開するクラウドワークス。
スキルを仲介するこれらの4社は、いずれも東京グロース市場に株式を公開している。
ココナラ
ランサーズ
こうしたサービスの中で、個人のスキルを、個人が利用しやすいスキルマッチングサービスを精査して、校正、校閲のできる人材を探した。提供しているスキル、価格、納期、実績、これまでの評価などを勘案して、ライターもしている校正者に見てもらうことにした。
noteの十数回分の記事は、書いた原稿をまとめて校正者に見てもらったものだ。連載の冒頭で、読書歴や学生時代に取り組んだことなど、自分が歩んできた道を長々と書き込んでいたが、「読者からすれば、テーマに沿った要点や結論を早く読みたいはずで、余計な部分は削ったほうがいい」といった貴重なアドバイスをもらった。
思い込みを排して、新たな視点を加えるという意味でも、プロにアドバイスを受けることが重要だと実感した。それで、表紙のデザインも、デザイナーにお願いするのがベストと判断した。
本の表紙は、読者へのメッセージが込められており、極めて重要である。クオリティの低い表紙は、読者をがっかりさせる。
雑誌の編集に携わっていたとき、書評欄を担当したことがある。編集部には、書評用にさまざまなジャンルの本が送られてくるが、毎号4~5冊の新刊を紹介する原稿を書いていた。本が完成する前に、表紙と裏表紙に何も印刷していない白いままのペーパーバック判の本が送られてくることがある。
プロモーション用に、本の内容を早く知らせようというものだが、装丁していない、白いままの本を手にすると、無味乾燥で、響くものがない。こうしたデザインが施されていない本に接する体験があっただけに、表紙の重要性を肌で感じていた。
スキルをマッチングするサイトで、本の表紙のデザイナーを探した。これまでデザインした本の表紙もアップされているので、校正者を見つけ出すよりも、判断材料は多い。キンドル出版で表紙を作成した経験があることも大きな要素で、1人のデザイナーにお願いすることになった。(敬称略)
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