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自分の事件なのに「調停がいつ開かれたか」を確認できない?【ニッチすぎる法律解説】

前回のニッチすぎる法律解説で「大法廷への論点回付」について解説したところ、思いもよらず反響をいただきました。どの層に受けたのかさっぱりわかりませんが、うれしいですね。SNS感あります。
今回は、自分自身の体験から反省も込めて。

調停の経過を確認したい

ある担当案件で、民事調停が不調となって訴訟に移行したものがありました。現在も訴訟が進行中で、ここにきて和解の機運が出てきています。
私は、調停の経過を確認しようと思い、自分で作っている手控えと照合するため、調停を担当した某簡易裁判所に記録の謄写(コピー)を申請しました。調停が行われていたのは3年以上前になるので、正式な資料でチェックするのが一番だと思ったのです。

民事調停法第十二条の六 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、調停事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は調停事件に関する証明書の交付を請求することができる。

記録といっても、提出された書面や証拠は手元にファイリングされています。欲しいのは裁判所で行われたやりとりの経過。裁判所では、やりとりを「調書」という紙に残すことになっているので、申請は「調停手続の期日について作成された調書一切」という形にしました。

民事調停法第十二条の五 裁判所書記官は、調停手続の期日について、調書を作成しなければならない。

ちなみに、民事調停規則11条、12条は、調書の記載事項を定めていて、出頭した当事者等、期日の日時及び場所、手続の概要等を記載することになっています。

「調書はありません」

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申請から数日後、裁判所職員から電話がありました。

「調書一切といっても、最後の回の不成立調書しかないけど、いいですか?」
いやいや、そんなはずないでしょ。何回期日やってると思ってるのよ、と民事調停法を再度見ると、

第十二条の五 裁判所書記官は、調停手続の期日について、調書を作成しなければならない。ただし、調停主任においてその必要がないと認めるときは、この限りでない。

「各期日の調書はありません」
つまり、この件では、調停主任が「必要がない」と考えて裁判所書記官に調書を作成させなかった。そのため、「不成立」という特に重要な手続が行われた最終回の分を除いては、調書がそもそも存在しない。ということだったのです。

私は尋ねました。
「調書がないとなると、そもそも裁判所の方でも、いつ期日が開かれて、誰が参加したのかといったことを確認することもできないのでしょうか?」

すると、回答は次のようなものでした。
「期日経過表というものがあるので、裁判所での確認は可能です」

なんだ、やっぱりあるじゃないの。と思ったら、続いて、
「期日経過表は調停委員のメモでしかないので、『記録』には当たりません。したがって、申請されても『記録の謄写』として受け付けることはできません。なお同様の理由で閲覧もできません」


「正式な書類で確認したい」って変ですか?

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期日ごとに作成される調書の記載内容は簡素なものです。協議内容が詳細に記されているわけではないことは承知しています。そうしたことを残したければ、手控えを作成するべきでしょう。現に、私も作成しています。

しかし、いつ、どこで行われ、誰が参加したのか、といった基礎的かつ客観的な事柄を正式な書類、公的な書類で確認したいというのは、当事者として不合理な要望でしょうか? 私は自然で合理的なものだと思います。

また、裁判所という国の機関が行うものである以上、少なくとも当事者が、その手続を公的に保管される記録によって検証する機会を与えられることが必要ではないでしょうか? 裁判所で保管されているものにアクセスさえできないというのは、権利保護という点からも権力監視という点からも不当です。

私は、穏便かつ丁寧な口調で、紳士的な姿勢で、あたかも借りてきたペルシャ猫のように、上記の旨を懇切にお話ししましたが、回答は変わりませんでした。やがて、

「お答えできないとしかお答えできない。なぜならお答えできないから」

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小泉進次郎か、とつっこみたくなるような発言まで出てきて、こちらもこれ以上話しても無駄だと断念しました。

この件については、その後、照会する旨の文書を発しましたが、「裁判官にも確認した結果、前回と同様のお答えである」とのつれない電話がかかってきて、いったん収束しています。これからどうするかは考え中。

どうすればよかったのか

民事調停法は、既にみたように、期日の記録について「原則調書作成。しかし、不要な場合は何も作成しない」というルールになっています。必要か不要かを決めるのは「調停主任」です。

調停主任は裁判官が務めますが、多くの事件では、実際の期日に参加するのは調停委員(民間から選任された人)のみで、調停主任は実際のやりとりには参加せず、調停委員からの報告を通じて接する、というのが普通です。この事件でも、私が調停主任に会ったのは最終回の1回、数分だけです。

そんな調停主任が調書作成の要否を決めること自体ちょっとおかしいのですが、それはさておき、当事者(代理人)から「必要だから調書を作成してくれ」と言っておけば(その旨の書面を出しておけば)、常識的には、調書を作成してくれるのではないかと思います(確証はありませんが)。「うるせえなあ」と思われるかもしれませんが、後顧の憂いなきように。

私の反省は、「当然調書が作られるよね」と思い込んでいたことです。それは裁判所に対する「誤った信頼」でした。手続法を都度チェックすることがいかに重要か。改めて思い知らされました。

【7/17追記】頼んでもだめでした

別の事件で調停期日が開かれたので、「民事調停法12条の5本文に基づいて調書を作成してください」という「上申書」を出してみました。

すると、翌日裁判所から連絡があり、

「民事調停法12条の5ただし書により、通常作成しておりません」

とのこと。いや、「通常作成していない」としても、「今回作ってくれ」という上申をしているわけなので、全然答えになっていないのですが、

「通常作成していないので、今回も作成しません」

の一点張りでした。当事者が求めても(たぶん、求める当事者はめったにいない)、「通常ではない」場合には当たらないようです。そもそも、原則と例外が逆転している運用がおかしいんじゃないかという話なのですが...。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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