スネイプ先生はBSSの良い例だった

※今回、この題材で文章を書くにあたり、ハリー・ポッターの内容のネタバレ、及び性的な事柄に関する説明が入ります。極力不快な表現を削り、核心に迫る事柄に触れないような文章を書くよう努力しましたが、どうしてもそのような要素を含みます。それを了解のうえお読みください※




成人向けコンテンツにおける一大ジャンルとして、“NTR”というものが存在する。
これがどういった内容を指すのかは、サブカルにある程度精通している人間ならすぐに分かるだろうが、知らない人のために軽く説明すると、NTRとは寝取られの略で、元来は恋人や妻が自分以外の他者と(半ば無理強いされる形で)性交渉を行うことを指していた。
しかし、サブカルの発達につれ、その単語が指すところは拡大していき、今では恋人でなくとも、また内容に性交渉が無くともNTRと呼ぶことがある。
そして、このNTRからの派生ジャンルと言うべきか、または細分化されたものというべきか迷うのだが、そのような立ち位置に「BSS」が存在している。
BSSとは、
B:僕が
S:先に
S:好きだったのに
の略で、先程上げた広義のNTRに該当するものだ。
密かな憧れを持っていた対象が、自分以外の者と結ばれる。というのがこれの主旨であり、今日では多くの作品がこれを描いている。
それを描いているのは専ら成人向けの漫画や小説が多いのだが、性交渉などの(直接の)描写が無いものの、これが明確に描かれている物語が存在する。それが、超ベストセラー児童文学である「ハリー・ポッター」なのだ。
ハリー・ポッターには、シリーズ全体を通して登場するキャラクターが何人もいるが、そのうちのひとり、物語の根幹に関わるのがセブルス・スネイプである。

彼はストーリー全体を通して、どちらかと言うと憎まれ役として描かれるのだが、物語も最終盤、第7巻「ハリー・ポッターと死の秘宝」の後半において、我々は彼の半生を彼自身の記憶を通して知ることになる。
スネイプは、ハリー・ポッターの母親であるリリー・エバンズと幼なじみであり、初期から淡い恋心を抱いていた。
彼女は、非魔法使い(マグル)の家庭に生まれたため、孤独を感じていた。それを慰めていたのが、幼い頃のスネイプであったのだ。
スネイプは幼くして闇の魔術に傾倒し、そのような魔法使いを多く輩出した寮、スリザリンに入寮する。リリーはスリザリンとは対照的に、勇気を重んじるグリフィンドールに入寮するのだが、それが2人の関係に初めに入った溝であった。そして、その溝は埋められることはなく、やがて決裂することとなる。

スネイプはハリー・ポッターの父親であるジェームス・ポッターを中心とする数人のグリフィンドール生に虐められていた。
リリーはスネイプと仲が良かったこともあり、高慢なジェームスを最初は拒絶するのだが、スネイプが闇の魔術に傾倒していったこと、そして彼の命を救ったことを知り、惹かれてゆく。
そしてリリーとジェームスは結婚するのだが、その子供であるハリーが産まれた頃、悪の巨魁、闇の帝王と称されるラスボス、ヴォルデモート卿が2人を襲撃、2人は殺害され、ヴォルデモートは力を失い、ハリーだけが生き残る。
スネイプは事前にリリーの命乞いをしていたのだが、それが聞き入れられることはなかった。
そしてヴォルデモートが唯一恐れた存在であるダンブルドアの説得により、スネイプは亡くなったリリーへの愛だけを原動力に、闇の勢力に従うように見せかけて裏切り、三重スパイとして活動することになる……
というのがスネイプに関する物語のあらすじだが、これを読んでどう思っただろうか。
既読の人も、未読の人も、スネイプが可哀想に思えたのではないだろうか。
好きだった相手が最も嫌いな人間と結ばれる。これだけでも悲しい話だが、その相手が死んだ後も強い想いを持ち続ける。
NTR、特にBSSがもたらすカタルシスを最大限に発揮する例として、セブルス・スネイプは非常に良い例だと私は思う。

まだ納得しない方のために、もう少しだけ話すとしよう。

スネイプはリリーへの恋心はあったが、それを他人には隠し続けた。作中の場面においては、彼女のことを穢れた血(非魔法族生まれの魔法使いに対する最大の侮辱)と呼び、それが2人の関係が破壊される決定的なきっかけとなった。
また、スネイプは決して善の象徴としては描かれていない。
彼は子供時代から暗い印象を持たせるような表現をされている。あまりいい言い方ではないが、まあ陰キャと言うべきキャラクターである。
長い髪、白い肌。ぶつぶつと喋る。
まあ好印象は与えないだろう。けれども、誰よりも、相手が死んで何年経った後も、自らが死ぬまでリリー・エバンズという人間を愛し続けた。
このキャラクター設定こそが、NTRを読む際に生まれるカタルシスを最大化し、スネイプが最終的に人気のキャラクターになることについて貢献しているのだと思う。

インターネット上では、半ばネタ交じりにNTRというジャンルに対する否定、肯定双方の言論が日々飛び交っている。
しかし、それは成人向けコンテンツにおけるNTRであり、広義の性交渉等を含まないそれに関しての議論ではない。
今回私は、それに一石を投じるべくこの文章を書いた。
物語のアクセントとしてのNTR、皆さんはどう考えただろうか。
今回はこの辺りで終わりとさせて頂く。それでは、また次回で。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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