見出し画像

2021年1月オランダの夜間外出禁止令の背景にあった葛藤

2021年1月23日、国会での議論の末、オランダではコロナ対策の特別措置として夜間外出禁止令(avondklok)が施行された。

この政策の実現の背景について簡単にまとめてみようと思う。

夜間外出制限の内容

オランダ政府HPによれば、夜間の外出が制限されるのは21:00-4:30、正当な理由なく屋外にいると罰金€95.00を取られる、ただし犬の散歩は許可されている。

この措置は日本の「自粛の要請」とは異なり法的拘束力があるといえる。

では、このタイミングで外出制限の措置が実現に至ったのはなぜだろうか。どのようにして至ったのだろうか。現時点でわかっている情報を整理してみよう。


ベルギーという先例

オランダでの夜間外出制限の背景には、近隣諸国、特にベルギーが同様の政策で感染者数減少に成功していることがあった。

画像1

(画像をクリックすると元記事に飛びます *1)

オランダのニュースメディアNOSがジョンズホプキンス大学のコロナマップから作成したコロナ陽性者数のグラフを見ると、隣国ベルギーは、2020年11月〜2021年1月において感染者数減少に成功していることがわかる(赤=オランダ、緑=ベルギー、オレンジ=ドイツ)。

2020年10月以前のベルギーでは、政治家ごと・地域ごとにコロナ対策の方針がまとまらず混乱していたため、10月末にかけて当時の欧州では最悪レベルの感染爆発を起こしていた。

しかしながらその後、ブリュッセルと南部のワロン地域(≒フランス語共同体)で22:00〜、それ以外の地域では0:00〜5:00の夜間外出制限が敷かれ(ただしそれ以前に同様の措置が取られている地域はあった*1)、他にもいくつかの措置(後述)がとられたことが効果的だったようで、感染者数が急激に減少した。

<余談>
コロナ問題を国境という観点で見直してみることは大事かもしれない。上記のような国別の感染者数のグラフを見ると、恣意的に引かれた国境のどちら側にいるかというだけの違いが最終的にこれほど大きな差を生むのだという事実に改めて驚く。他にも、国境が影響した例として、オランダの国土に囲まれたベルギーの飛び地Baarle-Hertogでマスク着用義務の有無について混乱があったという報道がある。 https://www.afpbb.com/articles/-/3300162

2/25 追記
RTLのコラム「コロナ時代の国境」を発見。
ベルリン在住のオランダ人ジャーナリスト・特派員が、夜間外出制限で家族に会うのも一苦労だという近況とともに、同政策はまるで幼い頃の門限で、親が「お前のために」とルールを設けて子供を従わせるかのようだと語る。彼が高速から降りて必ず立ち寄るマリーエンボルンとヘルムシュテットの旧東西ドイツの国境地帯に今も残るサーチライトと、蘭独国境で目を光らせる警察車両を重ね合わせた巧みな文章。
https://www.rtlnieuws.nl/columns/column/5215903/corona-nederland-duitsland-avondklok-spertijd


オランダでの導入の問題点

さて、第二波に直面していたオランダ政府は、ベルギーなどの成功を見習おうとして夜間外出制限を検討するようになった。

ただし、事前にいくつかの問題点が指摘されていた。

第1に、外出制限の必要性が疑われていた。

夜間外出制限の議論が始まったとき、オランダでは(おそらくロックダウンにより)既に感染者数が徐々に減少し始めており、外出制限の意義を疑問視する意見があった。それでもイギリス変異種の流行を防ぐためには対策が必要だ、というオランダ国立公衆衛生環境研究所長ヤープ・ファン・ディッセル(Jaap van Dissel)の反論的な見解がTrouwの記事で紹介されている。


第2に、手本であるベルギーは夜間外出制限以外も行なっているという指摘があった。

具体的には、ベルギーではブリュッセルでのマスク着用や、店舗休業、自宅訪問の停止といった複合的な措置により効果を上げているので、オランダで外出制限だけを行なっても効果があるかわからないと、NOSのニュース番組は解説している。


第3に、夜間外出禁止は行動の自由の侵害であるという意見があった。

具体的には、左派政党・与党のD66のロブ・イェッテン(Rob Jetten)が首相マーク・ルッテ(Mark Rutte, VVD党首)に対して、在宅勤務や在宅で子供の教育をしている人々が夜に外の空気を吸いに出かけられないといった問題点を挙げ、夜間外出制限は自由を奪う政策だと批判した。D66には人々に対して警察権力が行使されることや外出制限の効果が不明であることへの懸念があったと、ニュースメディアRTL nieuwsは報じている。*2

また、今回の夜間外出禁止令(avondklok)が第二次世界大戦時のドイツによるオランダ占領中の夜間外出禁止令(spertijd)を彷彿させるという歴史的な文脈(*3)での批判がSNS上で見られたことを、オンラインニュースメディアのmetroが紹介している。*4

これらの批判がある一方で、前述の専門家ディッセルは、家族や友人などの集まりにおいて感染拡大が起こっていること、手洗いやマスク着用も充分に実行されていないこと、今後イギリス変異株の流行が危惧されることを指摘していた。*5

これらを踏まえ、最終的にオランダ政府は夜間外出制限の実施に踏み切ったのである。


まとめ

以上、オランダ政府が夜間外出制限を行うに至る過程を追い、制限の実現前にあった葛藤について簡単にまとめた。

当然ながら政治家も市民も、感染状況だけでなく生活状況・社会情勢・人権といった点を重視して検討・議論しており、それゆえオランダ政府にとって今回のように人々の行動を制限する施策をとることのハードルは高い(高かった)といえるだろう。

このまとめで見落としている点があれば教えていただけると嬉しい。

夜間外出制限のもたらした結果については後日改めて書きたいと思う。


*1 https://www.rtlnieuws.nl/nieuws/buitenland/artikel/5173819/avondklok-provincie-antwerpen-strijd-tegen-coronavirus

*2 https://www.ad.nl/politiek/rutte-vraagt-kamer-om-steun-voor-avondklok-je-komt-er-niet-met-bestaande-lockdown~a6d9f877/ , https://www.rtlnieuws.nl/nieuws/nederland/artikel/5208069/kabinet-werkt-aan-avondklok-grote-weerstand-bij-burgemeesters-en

*3 https://www.nrc.nl/nieuws/2021/01/22/van-boevenklok-tot-avondklok-a4028705

*4 https://www.metronieuws.nl/in-het-nieuws/binnenland/2021/01/kabinet-avondklok-politie/

*5 https://www.volkskrant.nl/nieuws-achtergrond/waarom-is-een-avondklok-die-in-andere-landen-allang-is-ingevoerd-hier-zo-omstreden~b4c9d070/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?