🕸️2021年が走馬灯のようによみがえるミュージカル『蜘蛛女のキス』🕷️💋

ミュージカル『蜘蛛女のキス』@東京芸術劇場プレイハウス　11/28マチネ・12/8マチネ(長文です。ネタバレあり。私見多め)

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#安蘭けいさんのお写真は劇場で流れていたPVからお借りしました
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🕸️2021年が走馬灯のようによみがえるミュージカル『蜘蛛女のキス』🕷️💋

「死」を、受け入れる要因があまりにも整いすぎた年周りだった。

ざっくりまとめると昨年末の甲状腺腫瘍の手術に始まり、2月の椎間板ヘルニアと脊椎管狭窄症の手術を経て、10月の左足首骨折、右膝蓋骨骨折の手術(映画コメンテーターのLiLiCoさんと同じ施術)を受けて自分の命が燃え尽きるのではないかと痛感したからだ。コロナ禍の入院でPCR検査を都合4回も受けてしまった。

全手術とも全身麻酔を使い、目が覚めると痛みも激しかったが、何よりも激しい副作用は「幻覚」である「せん妄」を見たことだ。

夜になると自身の手足に蜘蛛が沢山這いつくばり、そして名前を呼び掛けられたり、話しかけられたりして不眠となった。

この現象は、医師の判断のもと処方された薬を飲んで解消された。

退院後のいま、幻覚じたいに恐怖心は感じず、むしろファンシーでユーモア溢れる蜘蛛達にまた出会いたいとすら感じている。

🕸️映画版『蜘蛛女のキス』からの振り幅感が凄いミュージカル化🕷️

入退院を繰り返すなか、ミュージカル『蜘蛛女のキス』が上演されることを知り、まず映画版を観た。モリーナ 役のウィリアム・ハートの映画にのめり込むその姿が、ほぼ女優なことに意表をつかれた。囚人でありながらも自分の世界観を持つ人物像を丹念に演じる様を何度も目に焼き付けてしまった。ふと監獄の光景に既視感を得た。そこには常に白いベッドがあり、医師(介護員)がいて……
そう、私の入院生活とリンクする景色があった。もちろん病院の医療従事者方々は親切で、患者としての私の身体だけてなく心もケアして頂いた。映画で見た残酷なシーンは皆無だったことは記さなければならない。
しかし入院期間中にそう広くもない部屋に何名かと過ごし、ベッドが自分の唯一の居場所だった。モリーナやバレンティンが感じていただろう非日常的な環境を共有したことを振り返ると、俄然ミュージカルへの期待も高まった。

退院後に満身創痍の身体で観た11/28マチネの『蜘蛛女のキス』は想像とは隔たったものだった。映画では回想のみに出てくる蜘蛛女=オーロラが歌う、踊る！！！モリーナ気分を味わうのかと思いきや、そこは蜘蛛女=オーロラのショーがリアルに手に届く距離で繰り広げられ、映画との違いにがく然としたのが正直な感想だ。しかしピンポイントで共感できたのが、劇中モリーナが腹痛を訴えて介護員にモルヒネを打たれるシーン。介護員によるタンゴが巧みな手技で披露され、麻酔でまどろんだ自身の手術後が思い浮かんだ。「麻酔が切れたら蜘蛛が幻覚で出る」経験が蜘蛛女の登場を恐れるモリーナと繋がったようだった。

🕸️痛みを感じたからこそ感じた演劇の力🕷️

今回のポスト全編に自身の入院記録が書かれているが、痛みや非日常を伴った経験があってこその『蜘蛛女のキス』だと思う。だいぶ歩けるようになってから観た12/8マチネでは、モリーナの慈愛に満ちた温かな人間性が演技や歌であますことなく溢れていた。劇中「愛し合おう」では、ラテンのリズムに乗って拍手でオーロラ&男性のダンスを楽しめた。お約束の言葉やシーンがたくさんあり、「歌舞伎か？」と錯覚することも。
これは怪我や病気が日を追うごとに治癒されるように、演劇も上演を重ねるうちに深化して観客としての心の奥底に届いた賜物だと感じる。

この演目には生きづらさを抱えた人々への思いや心が掲げられているが、自身のように身体の不都合を抱えてしまった人間の心の持ちかたも提議しているようにも思える。苦しむだけ苦しんだ後『蜘蛛女のキス』を観ることで、傷ついた身体や心は癒され、そして思いのほか自由になれる。モリーナの妄想の中を楽しく探訪でき、ミュージカルの創造力の計り知れない大きさに魂が揺さぶられた。きっと目指すところへ歩み出せるリハビリとなったと思いたい。

身体の不都合を申し出たところ、出入りがしやすい席に変更いただいたホリプロ、そして東京芸術劇場の方々に末筆ながら感謝申し上げます。